実は武田信玄だけだった?! 歴史シミュレーションゲームでお馴染み「魚鱗陣」「鶴翼陣」など「陣形」を使った武将

ビジネス

更新日:2017/7/7

『戦国の陣形(講談社現代新書)』(乃至政彦/講談社)

 先日たまたま中学生の歴史教科書を手にする機会があった。その際、筆者世代は「1192(いいくに)つくろう」で覚えた鎌倉幕府が成立した年号が、今では「1185年」(語呂合わせなら「いいはこ」つくろうとなる)に代わっていたのを知って驚愕した。

 そして先日手にした歴史本からは、筆者がその昔に少々ハマった某歴史シミュレーションゲームに、大きな疑念があることを知らされ、再び驚愕したのである。

 その歴史本とは、『戦国の陣形(講談社現代新書)』(乃至政彦/講談社)である。本書は、『甲陽軍鑑』(こうようぐんかん/戦国大名である武田信玄の戦略・戦術を記した軍学書)を中心に、膨大な史料に基づいて著者が考察した、戦の際の「陣形」の史実を解き明かす書だ。「陣形」とは、サッカー他スポーツ競技でおなじみのフォーメーションである。

advertisement

 本書では、律令制の時代(7世紀後半)を皮切りに、鎌倉時代、足利・南北朝時代、戦国の世と、時代を追いつつ時の武将や旗本、足軽や雑兵が、どう「陣形」を取りながら戦場に臨んだかが明かされていく。そもそも「陣形」は、律令制の時代に中国から輸入された「諸葛亮八陣」が基本形となるのだが、本書を読むと、どうやらこの時点で正しい情報の伝達があったとは言えないようだ。

 つまり誤情報の継承という課題が「陣形」の歴史にはつきまとい、それは現代にも通じている。著者によれば、歴史研究家は古来より数多いものの、この「陣形」を含む日本軍事史の分野に関しては、現代にいたるまで研究の質・量は潤沢ではなく、歴史アカデミズムの中でもいわばミッシングリンクになっている分野らしい。そのため歴史公証も浅くなり、ドラマ、映画、ゲームなどで「戦い方はこうだったはずだ」という憶測の検証が行われないまま、それがさも史実だったかのように再現されているというわけだ。

 例えば、筆者が少し心得のある戦国時代のシミュレーションゲームでは、「魚鱗陣(ひし形)」「鶴翼陣(V字型)」など、強さの序列が決められたいくつかの陣形が登場する。さも当時の戦国武将たちが「陣形」に明るく、いくつかのバリエーションを使い分けて戦況に臨んだかのような印象を受けてしまうものだ。しかし史料などから、史実をつまびらかにしていくとどうなるのか?

 著者の得た結論は意外なものとなる。というのも、これまでの歴史上で定型の「陣形」を戦場で実践したのは「武田信玄」ただ一人だった、というのが史実だったのである。しかも結局「陣形」とは、決して盤石な戦果を遺した完璧な戦法ではなかったのだ。

 本書では、その史実を突き止めるため、川中島、三方ヶ原、関ヶ原の合戦ほか、史上に名を遺す様々な合戦の舞台が検証されている。また、武田信玄と上杉謙信が取り組んだ軍制改革の真相、伊達政宗、徳川家康他、様々な武将たちの心理戦や人間模様など、戦視点で歴史を見ることで新たな日本史観を得ることもできる。

 歴史ファン、歴女、歴史シュミレーションファン、新たな視点で日本史を振り返りたい、そんな方々にお勧めの一冊である。

文=町田光

講談社「教養を磨く現代新書の100冊」電子書籍フェア開催中!

第1弾 7/7~7/20
▶ラインナップはこちら

<対象書籍(一部)のレビューはこちら>
■『ラーメンと愛国』
「ラーメン二郎」は宗教!? ネットで人気を集める秘密

■『現代アートコレクター』
草間彌生、村上隆、奈良美智、会田誠、山口晃…抽象的でむずかしい「現代アート」を見極める7つのポイントとは?

■『ヒゲの日本近現代史』
「大ひげ禁令」に「ヒゲ裁判」? 男の見栄が見え隠れする「ヒゲ」の歴史

■『カフェと日本人』
日本人はどうしてカフェ好きなの?「サードウェーブ」流行の背景にある、カフェ展開の歴史

※第2弾「仕事に効く現代新書の100冊」電子書籍フェアは7/21~開催予定です。