藤井四段の登場で注目される「棋士たちの食事」。プロ棋士の「勝負めし」をテーマにした『将棋めし』が話題に

マンガ

更新日:2017/8/10

 2日に行われた竜王戦決勝トーナメント二回戦で惜しくも敗れたものの、公式戦29連勝という記録を打ち立て、一躍時の人となった藤井聡太四段。新星の誕生に、将棋界はにわかに盛り上がりを見せている。そんな藤井四段の言動が日々メディアで報道される中、将棋ファンの間で注目を集めているのが、藤井四段をはじめとする棋士たちの“食事”だ。

 ご存じの通り、棋士たちは頭を使って闘うアスリート。10の220乗ともいわれる膨大な一手を読み合い、心理戦・頭脳戦を制するのだ。そんな彼らにとって、対局中の食事は非常に重要なもの。藤井四段は好きなものを食べていたようだが、中には先日引退を発表した加藤一二三九段のように「うなぎ」しか食べないなど、食事にも験を担ぐ棋士もいるくらいだ。

 そんな棋士たちの食事をテーマにしたマンガがある。それが『将棋めし』(広瀬章人八段 将棋監修、松本渚 著/KADOKAWA)である。

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 主人公は女性プロ棋士・峠なゆた六段。「ノーカロリー、ノー将棋」をモットーとする彼女にとって、対局中の食事は勝負のひとつで徹底的にこだわり抜く。たとえば、対局相手とメニューがかぶってしまうのは絶対に嫌。いくら食べたいものがあっても、相手に先にそれを選ばれてしまったら他のものをチョイスするのだ。また、「うな重」の等級で負けるのも絶対に嫌。相手が“竹”を注文すれば、こちらは“松”を選択し、食事でも上をいこうとする。そして、過去に大ポカをやらかしてしまった時と同じものは食べない。彼女にとって「将棋めし=勝負めし」なのである。

 作中に登場するのは、どれも実在するプロ棋士御用達のお店ばかりだ。千駄ヶ谷にあるうなぎの名店「ふじもと」、お昼はそば屋、夜は居酒屋として営業する「みろく庵」などなど……。それらのメニューを紹介しながら、棋士たち(主になゆただが)がどんな思いで食事を摂るのかが描かれている。

 また、第1巻に収録されているとあるエピソードでは、将棋めしの楽しみ方が明示される。新入り将棋ファンである七窪奏珠が、将棋の聖地である千駄ヶ谷を訪れたときのこと。棋士と同じごはんを食べてみようと決意した奏珠は、みろく庵を尋ねる。そこでなゆたと会い、相席することになるのだが、そこでこう発言するのだ。「私みたいな一般人にはプロの先生の将棋は真似できないし、難しくて理解できないことが多いんです。けど、ごはんなら真似できるし、棋士の様子まで想像できるから」。確かに、将棋を知らない人間からすると、対局の様子を理解するのは正直難しいもの。しかし、奏珠のように将棋めしから棋士たちの思惑を想像したり、勝負の行方を予想したりすることはできる。そうか、こんな楽しみ方もあるのだ。

 本作は棋士である広瀬章人八段が監修を務めているため、対局シーンは本番さながら。巻末にはエピソード中に登場した棋譜の解説も収録されているため、将棋ファンも満足する作品になっている。

 今年1月に発売された第1巻は、発売後すぐに重版がかかる人気ぶり。8月には第2巻の発売も控えているため、ここ最近の将棋ブームと相まって、マンガ市場で存在感を増すに違いないだろう。ごはんから紐解く将棋の世界。その奥深い世界を味わってみてほしい。

文=五十嵐 大