金も女も大麻も酒も手に入れる――元マネージャーが明かす、伝説的アウトロー俳優の素顔とは?

芸能

公開日:2017/7/15

『勝新秘録 わが師、わがオヤジ勝新太郎』(イースト・プレス)

 勝新没後20年。勝新太郎の元マネージャー、アンディ松本による回想録が刊行された。アンディが“オヤジ”と呼ぶ勝新のマネージャーを務めたのは、1978年から1984年までの6年間。この期間は、勝新にとって波乱の時期だった。

 1978年にはアヘン所持で逮捕、翌年には黒澤監督の『影武者』の主役に抜擢されたものの、監督と衝突して降板、1981年には勝プロダクションが倒産。負債総額12億円を背負った。が、記者会見で「勝新太郎は負けない」と宣言。そんな勝新の役者人生における最もキツい時期を共にしたのがアンディ松本だ。しかし、苦労話や泣き言が本書に出てくるわけではない。

『勝新秘録 わが師、わがオヤジ勝新太郎』(イースト・プレス)というタイトルに偽りはなく、アンディ松本が描き出すのは、芸事に魂を捧げた完全主義者の“師”であり、人間臭くてスケールがケタ外れの愛すべき“オヤジ”である。

advertisement

 京都の高級クラブ「ベラミ」で、階段を下りてきた勝新太郎を見て、アンディはいきなり「大ファンです!」と話しかける。それを当たり前のように受け止め、酒席に招き入れたばかりか、アイスバケツに注がれたレミーマルタンを振る舞い、「おまえさん、良い目してるね」とキラーワードを刺す勝新。まさに映画以上に映画的な出会いである。アンディ松本氏の回想する俳優・勝新太郎の姿を見ていると、どこまで狙ってるんだ! と言いたくなるほどに勝新のセリフや行動がいちいちカッコ良く、こりゃ、そばにいたら男惚れするだろうなあと凄まじい説得力がある。

 櫛を持たずに出かけた時、車のボンネットにたまった水を、勝新が手ですくって髪を整えた……というエピソードには、出来過ぎ! と突っ込みたくなるものの、あの勝新太郎ならあるだろうと脳内で再生されてしまう。一方で、海外で娼婦を買い、悪い病気をもらって尻にペニシリン注射を打つ羽目になったとか、飲み過ぎてパンツにうんこを漏らしたとか、飲酒運転で捕まり、「ワインしか飲んでいない」と答えた件など、世間の勝新イメージを裏切らない豪快エピソードには事欠かない。が、その芯にあるのは、人々を楽しませようとする天性のエンターテイナーの精神だと、アンディ松本氏は哀惜を込めて語る。

「オヤジそのものが“勝新太郎”という名の作品だった」と、本書の冒頭に書かれている。そして、「オヤジは二十四時間三百六十五日、心身をすり減らし、血の一滴まで絞り出して、みなを勝新太郎ワールドへ誘い、楽しませてくれました」と。

 金も女も大麻も酒も、常識を蹴破るような昭和の怪優・勝新太郎と濃厚な時間を共にしたアンディ松本氏にある質問を投げてみた。

「一緒にいて、“勝新太郎”を演じることに疲れを感じている瞬間を見ましたか」と。
答えは、「ない」だ。

「もしかしたら疲れているのかもしれないと、こちらが憶測することはあったけれども、オヤジがそれを見せたり、ましてや口にすることは一度もなかった」と。

 勝新太郎、本名・奥村利夫が生涯かけて演じ尽くした勝新太郎、そしてその“漢気”という「作品」に男泣きで哀悼を捧げた本書、まさに極上のエンターテインメントである。

文=ガンガーラ田津美