「胸躍るテーマパーク」博物館! 展示物を眺めるだけじゃない!「知の財産」を楽しむ方法って?

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公開日:2017/7/20

『ぐるぐる 博物館』(三浦しをん/実業之日本社)

 読者諸氏は、博物館に対してどんなイメージを持っているだろうか? もしかして、堅苦しく退屈だと思っているのなら、それは実に損だと思う。いつだったか某大臣が「(学芸員には)観光マインドがない」とする旨の発言で物議をかもした。確かに学芸員たちは研究・保存に懸命となっているが、それは世の人々に「知の財産」を伝えるため。だからこそ、実際には観客を魅了する仕掛けが盛り沢山で、つい長居してしまう人も少なくないだろう。小生も気付くと閉館時間ギリギリになっていることばかりだ。

 本書『ぐるぐる 博物館』(三浦しをん/実業之日本社)は、各地の施設をぐるぐるとまわり、そこの学芸員に案内されながら「個人的な興味のおもむくままに」レポートする1冊。著者の三浦しをんは、博物館を「胸躍るテーマパーク」と称し、旅先で見つければとりあえず入ってみるという。

 まず、日本を代表する博物館の1つ、東京都の「国立科学博物館」に注目したい。ここで著者は、インドネシア・フローレス島に5万年ほど前まで生息していた、とても小柄な種族「フローレス原人」に惹かれる。その身長は1mほどで孤島に適応した進化だというが、何よりなぜその島だけに生息していたのかが不明だ。当時に舟を作る技術はないと考えられており、島外からどうやって流れ着いたのか?

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 そこで著者は、「ゾウに乗って海を渡った?!」と大胆過ぎる仮説を提示。当然ながら学芸員からはあっさりと却下されるが、こうして自分なりに考えてみるのも、展示を理解するうえで大切なことだと思う。ただ漠然と学説を聞くだけよりも、興味がより深まるはずだ。

 また、岩手県にある「石ノ森萬画館」にも訪れている。言わずと知れた岩手県出身の故・石ノ森章太郎の功績を記念して設立された博物館であり、東日本大震災後には、東北復興のシンボルとしても愛されてきた場所。昔からマンガ好きだという著者は、入館前から独りで盛り上がっていた。

 そして、展示室内で平成仮面ライダーシリーズの第1作、クウガの姿を見つけるとさらにテンションが上がる。主人公の五代雄介を演じたオダギリジョーの大ファンだからだ。当時すでに「大きなおともだち」だったと自嘲しているが、訪れるファンの中にもそういう人は決して少なくないはず。勿論、小生とて同じだ。

『サイボーグ009』コーナーでも大興奮は続き、来客を迎えるサイボーグ戦士たちの精巧な等身大人形に黄色い声を上げている。さらに面白いのが館内のエレベーター。その中に流れる音声案内が1979年版のアニメで島村ジョーを演じた井上和彦によるもので、下降時には「君はどこにおりたい」、上昇時には「行くぞ!加速装置!」と作中のセリフを引用したアナウンスが聞ける。その美声に著者は失神したと語っており、これは確かに必聴だろう。

 本書には、番外編として「熱海秘宝館」の話題も掲載。今でこそ廃れているものの、「秘宝館」と称する施設が昭和には全国各地にあったという。ご存じの方も多いかと思うが、要は性風俗に特化した展示施設だ。著者は幼少時よりその存在が気になっていたというが、本書執筆のためにようやく初体験。展示内容は意外なまでに明るい雰囲気で、かえってエロスは感じない。そのせいかカップルでの来館も多く、むしろその事実に戸惑いつつも、下ネタの「満漢全席」を堪能している。

「博物館」と一口に言っても、展示規模や内容は様々で、博物館ごとに個性が違うもの。他にも仏教にまつわる文化を総合展示した京都府京都市の「龍谷ミュージアム」、日本製眼鏡フレームの聖地、福井県鯖江市にある「めがねミュージアム」なども紹介されている。どれも著者の個人的好奇心に任せたレポートで、楽しみ方はこれで良いんだと改めて納得。あとは、開館時間がもう少し長ければ、小生のような夜型人間にも有難いのだが……。

文=犬山しんのすけ