AIにとって苦手な仕事って? 懸念される暴走を回避するには?

社会

公開日:2017/7/21

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(小林雅一/講談社現代新書)

 モノとネットワークの繋がりを指す「IoT」や、自動運転技術などへの関心から昨今は「AI(人工知能)」の話題が尽きない。ひと昔前にはSF映画の話のように思われていたが、2045年にはAIが人間の脳を追い越すという「シンギュラリティ(技術的特異点)」の問題など、様々な視点からの議論も繰り返されている。

 AIを取り巻く世界は目まぐるしく変化しているが、その現状と功罪両面からの可能性を検証する書籍が『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(小林雅一/講談社現代新書)だ。本書で取り上げられるAIの“今”から何が見えてくるのか、その内容を紹介していこう。

◎米国で生まれたAIの概念。今では自律的な思考をするまでに

 通販サイトで「おすすめ商品」を提示される。じつはこれも、AIによる働きのひとつだ。多岐にわたる役割を求められるAIだが、この場合に使われているのは「機械学習」というひとつの能力。本書によれば「コンピュータが(実社会やウェブ上に存在する)大量のデータを解析し、そこからビジネスに役立つ何らかのパターンを抽出する」という技術が用いられている。

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 この他にも、身近な例でいえばiPhoneの音声認識機能「Siri」など私たちの周りでAIが活用される場面は多いが、AIは現在「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術により自律的な思考をするようになった。

 人間の脳を機械で再現する。その目的から始まったAI開発の歴史をさかのぼると、1957年、米国の科学者で心理学者でもあるフランク・ローゼンブラットが考案した「パーセプトロン」と呼ばれる概念からスタートした。それから60年が過ぎ、様々な分野での実用化が進む今では、画像検索などのパターン認識技術に代表されるように「コンピュータが人間から何も教わることなく、自力で何らかの概念を獲得」するまでになっているという。

◎教育によっては不良化……。懸念される自律したAIの暴走

 生まれたままのAIは何も知らない。データと仕事を与えてから、吐き出した答えに対して人間が褒めたり叱ったりすることで「自分のやり方のどこが良くて、どこが悪かったかを自分で発見して、どんどん上達していく」とその“教育過程”を本書は解説する。

 ただ、その時点で人間が教育の仕方を誤れば“不良化”する恐れもある。その先で懸念されるのは、AIの暴走だ。世界的にも議論されていることだが、著名な理論物理学者のスティーブン・ホーキング、ノーベル物理学賞を受賞した米MITのフランク・ウィルチェック、AI研究者で米カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセルらは、英インディペンデント紙で以下のような見解を発表した。

「本物のAIを想像することは、人類史上、最大の偉業となるだろう。それは戦争、飢餓、貧困といった極めて困難な問題さえ解決してくれるかもしれない。しかし一方で、それがもたらすリスクを回避する手段を講じなければ、AIは人類が成し遂げた最後の偉業になってしまう恐れがある」

 AIを扱うのは人間だ。本来、人間にとって困難な作業や時間のかかる作業を “分担”できるのが理想のようにも思える。しかし、AI自身が自律した思考を身に付けている現状をふまえると、いつの日か“意思”を持ち動き出す可能性も十分にはらむ。

◎脅かされる人間の職種。理髪業者や介護ヘルパーなどは苦手?

 昨今ではやはり、AIにより人間のあらゆる職種がおびやかされる事態も懸念されている。2014年3月、マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツは米シンクタンクの講演会で以下の見解を示した。

「AIによる雇用の侵食は、『運転手』『ウエイター』『看護師』等々、さまざまな職種に広がろうとしている。……今から20年後、現在の労働者が持っている各種職能への需要は大幅に低下しているだろう。しかし(現時点で)人々はそれに全く関心を寄せていないように思われる」

 すべての職種がAIに脅かされるのかといえば、本書は「苦手とする仕事」もあると主張する。例えば、「理髪業者」や「介護ヘルパー」など、実際に身体を動かす必要があり、なおかつ状況に合わせて「視覚や聴覚のような高度なパターン認識」をともなう「非定型的な労働」には向かないという。

 しかし、ここで引っかかるのは“苦手”というだけで、取って代わられる可能性がゼロではないということだ。実際、福祉分野ではAIを搭載したロボットを介護の現場で活かそうとする試みも進んでいる。

 昨今、新聞社ではAIが書いた記事が実際に掲載されるなど、ライターである筆者も気になる話題が尽きない。本書を読んで浮かんできたのは、AIが何かを“創造”しはじめれば、いよいよ本格的に人間の意義が問われるのではないかという疑問だ。ただ、日夜進化する技術が、私たちの生活を支え続けているのも事実である。いずれ敵と味方のように対立するのではなく、人間とAIが共存する未来に期待したいところだ。

文=カネコシュウヘイ

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