重要なニュースより視聴率がとれるネタを優先――日本のマスメディアの限界と可能性とは? 池上彰×増田ユリヤ対談【後編】

政治

2017/7/24

(左)池上彰さん(右)増田ユリヤさん

 

■「政治的中立公平」を規定した放送法がなくなれば日本も変わる!?

――海外では選挙シーズンになると政治家のテレビ討論も盛んに放送されますが、日本では政治番組自体が非常に少なく、テレビ討論も誰かが欠席すると見送りになります。日本における政治とメディアの関係についてはどう見ていますか。

池上 日本はアメリカと違って、「政治的中立公平」を規定した放送法がありますからね。テレビ討論も、去年の参議院選挙のときは自民党が欠席したので、番組自体が流れてしまった。メディアはやりたかったのに自民党が逃げたんですよ。

増田 どの国も、テレビ討論は有権者にとって大事な判断材料になりますから、日本のメディアも自由にやったらいいのにと思いますけどね。

池上 放送法があるために、政治情勢について言いたいことを自由に言える環境ではないんですね。しかも日本の民放のニュースは常に視聴率を気にします。1分刻みで視聴率を調べていて、どの話題をとり上げたときに数字が上がったか下がったか、翌日にはわかるんですよ。当然、担当ディレクターが誰かわかるから、コイツのときに落ちた、上がったとなるわけです。

 報道すべき内容かどうかというのは、二の次という考え方も根強いです。たとえば、舛添要一さんの公私混同問題のニュースのときなんて、急に視聴率が上がったために各局が同じような内容を何度もしつこく放送し続けました。そうすると視聴者が飽きてくるので、突然、終わるわけです。どのニュースもその繰り返しですから。

 イラク戦争のときに、NHKの国際部の人から聞いてびっくりしたのは、「続いてイラク情勢についてのニュースです」と言った瞬間に視聴率がドーンと落ちるという話です。NHKはそれでも放送しますが、視聴率優先の民放にとっては致命的なので、やめておこうという話になるわけですね。にわとりと卵、どっちが先かわかりませんが、国際情勢のニュースは視聴率がとれないからやらない、テレビで取り上げないから視聴者はますますわからなくなって視聴率が下がる、そういう悪循環になっていると思いますね。

■視聴率が低いはずの国際ニュースが甲子園よりも注目されたワケ

――世界各国のメディア事情も見てきた増田さんが、日本のメディア、特にニュース番組の問題点について感じることはありますか。

増田 出演者が言うべきことをビシッと言えない状況というのは、忖度の雰囲気のなかであるように思います。バランスをとる発言をしないと、次は番組に出られなくなるかもしれないという懸念がコメンテーターの人たちにないですか?

池上 あるかもしれませんね。

増田 私もコメンテーターをしていますので、そういう空気は多少感じます。テレビ局側にウケがいいという表現が適切かどうかわかりませんけれども、そういう発言をしておけば妥当だろうというような空気ですね。それと、極端なことを言う人たちは、あえてそういうキャラクターを売り込もうとしていて、そこに一貫した考えがあるのかどうかはまた別問題だったりします。

 自分の頭で物事をきちっと考えて理論立てて意見を言っても、視聴率がとれないとか、そんなこと言われたらうちの社としては困るとか、そういうテレビ局側の都合が見え隠れするわけです。今回の加計問題についての報道も、NHKですらおかしいんじゃないかと思うような状況になっている。ニュースの担当者も、確固たる自分の意見を言いづらくなっているんじゃないでしょうか?

池上 それはあるでしょうね。私自身、報道の現場にいて思うのは、日本のテレビ局はもっと国際ニュースを取り上げたほうがいいということです。増田さんと一緒に月1回、テレビ朝日の『ワイド!スクランブル』に出るようになったときも、最初にイスラム国(IS)について取り上げたいと言ったら、担当プロデューサーが「え? そんな国際ニュースを?」みたいな反応だったんです。

増田 一昨年の8月、トランプさんを取り上げたときも、甲子園があって絶対に視聴率がとれないといわれている時期だから、まあいいかという感じでしたよね。

池上 そうそう、どうせ視聴率とれないから、好きにやっていいよと(笑)。

増田 ちょうどトランプさんが出てきて泡沫候補といわれていて、カツラ疑惑だ女性問題だといろいろネタがあるから取り上げましょうとなって。

池上 そしたらその時間帯の視聴率がトップになったんですよ。

増田 甲子園もある時期なのに。

池上 トランプさんの話題はネタのひとつで、「アメリカ大統領選挙、共和党候補者選び」というテーマで、候補者をすべて取り上げたんです。他の局がやらないから。そのなかの色物としてトランプさんの話題にも触れました。あのとき思ったのは、ちゃんとわかりやすくやれば、国際ニュースでも視聴率はとれるということです。国際ニュースは視聴率が落ちるとテレビ局側が思い込み過ぎなんですよね。結局、増田さんとはその後も毎月一回、番組内で国際情勢を取り上げていますが、そのたびにスタッフの中からは「ええ? そんな話?」みたいな反応が出ることがあるんですけど、終わって蓋を開けてみると毎回、視聴率はいい数字なのです。

■都議選でボロ負けした自民党は一気に不安定になる

――最近の日本の政治ニュースは、森友・加計問題をはじめとした自民党叩き一色ですが、日本の政治とメディアの関係はどう見ていますか。

池上 安倍一強のときは、自民党あるいは官邸がテレビをチェックしていて、ちょっとでも気にくわない発言があるとすぐにテレビ局に電話がかかってきました。露骨な圧力をかけるなんていう馬鹿なことはしないで、「あれは間違っている」という抗議電話をしつこくかけてくるわけです。おかしな話ですよ。それが繰り返されると、自民党のことを報道すること自体が面倒くさいとなってくるんですね。

 しかし自民党もほころびが出てきて、明後日7月2日の都議会選挙で自民党がボロ負けしますから。月曜日から(※)は、安倍首相に対する批判の番組が一気に増えて、安倍内閣が急に不安定になります。

――若い世代はもうテレビを見なくなっていると言われています。スマホ世代の情報源は、WEBのニュースやSNSが中心ですが、信憑性に欠けるものが多い。正しい情報を見極めるうえで心がけるべきことは。

池上 ネットの情報を信じるなとまでは言いませんが、いろんなニュースをしっかり見比べてほしいですね。それと書籍は基本的にすべて校閲がかかっていて、嘘やでまかせは書けませんから、あるテーマについて調べるなら書籍が一番信用できると思います。私たちの本もぜひ参考にしてほしいですね。

増田 私は取材する前、あえて情報を頭に入れすぎないようにしています。たとえば、ポーランドに取材に行くとき、保守の政党が政権をとったぐらいのことは、もちろん知識として頭に入れておきますけど、それ以上のことは現場の声を聞いて確かめようと心がけました。ただ、自分で確認できることは最大限いろんなものを使って調べています。本も非常に大事ですね。普段からたくさん読書しているというよりは、自分が知りたいテーマでどんな本が出ていて、どの本がきちんと裏付けをとって書いているのか?ということを重要視しています。その際、海外の新聞記事などもチェックして、このテーマについてはこの見方で間違っていないだろうか、と自分で裏付けをとる作業もしています。

池上 ひとつはっきりいえるのは、ステレオタイプの物の見方はやめたほうがいいということですね。あの国はこうだろうとか、あの政党はこうだろうとか、自分で調べもせずに聞きかじったような情報を鵜呑みにするのが一番よくないです。

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(※)当対談は6月30日(金)に行われたものです

取材・文=樺山美夏 写真=内海裕之