「いま頼りになる人」が改革に不向きな理由

ビジネス

公開日:2017/7/25


 どんな組織にも、この人がいなければ仕事が回らないという中心人物、キーマンというのは、必ず何人かいると思います。

 仕事全体の流れを知っていて、現場で動くメンバーに対するリーダーシップが取れる人、いちいち指示をされなくても自分で判断しながら動ける人は、特に日常業務を進める上では重要な存在です。経営者やマネージャーから頼りにされるのは、そういう立場で仕事が進められる人であり、そういう人ほど仕事が集中して忙しく、経営者やマネージャーだけでなく、部下からもいろいろなことを頼られます。仕事上の中心人物ですから、当然いろいろなことで意見を求められます。

 私が企業の組織改革などのテーマでコンサルティングに関わる時、それを進めるプロジェクトメンバーや意見交換の窓口には、そんな社内のキーマンが必ず名を連ねています。私たちのようなコンサルタントが、その会社の問題点を把握するためには、そんなキーマンたちから意見を聞くことが必須になります。事実その人たちの話から、本質的な課題指摘や改善テーマが浮かび上がってきます。

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 ただ、そんなキーマン、言い換えると「いま頼りになる人」に、それらの課題をこれからどうやって克服、改革していくかを聞いてみると、意見としては出てくるものの、なかなかそれが実行に移されるところまで行きません。みんながみんなとは言いませんが、“いま頼りになる”キーマンは、改革の必要性までは言うものの、その先の具体的な話がなかなか進みません。さらに何か決まったことがあったとしても、それに対する実行力が思いのほか弱かったりします。これは一部の会社に限られたことではなく、私が多くの会社で見かけてきたことです。

 会社の中心メンバーですから、その意見はないがしろにはできないですし、課題指摘としては正しいものが多いので、これからどうすべきかを考える材料にはなります。ただ、「現状を変えよう」と具体的に行動する力は、必ずしも強くはありません。

 私がまだコンサルタントとして駆け出しの頃は、とにかく社内のキーマンから実情を聞き出して、その後の取り組みにいかに協力してもらうかということを考えていました。しかし、いろいろな会社の現場を積み重ねる中で、そんなキーマンから得られる情報は、現状の問題点については的確であるものの、そこから先をどうするかといった改革の方向性や具体策といったものは、抽象的なままで終わってしまうことが多々ありました。

 この理由をずっと考えていましたが、ある時に何となく気づいたことがありました。それは仕事のキーマン、言い換えて「いま頼られる人」というのは、現状の仕事の進め方に最適に順応した人だということです。これは本人の努力の結果でもありますが、今の仕事の進め方、今の仕組みが、自分にとっては最も仕事が進めやすい形になっています。

 そうなると、現状の問題点くらいの意識はありますが、本人は現状に合わせて自分なりの仕事の進め方を組み立てているので、本音の部分で不自由を感じていません。多少非効率な部分があったとしても、特に日常業務の中では慣れたやり方が一番やりやすいということです。今の作業環境に最もなじんだ人なので、それを変えようという意欲は、必ずしも高いとはいえません。

 今の環境の中での最適を追いかけているので、その枠から外れたことを問いかけても、そこまでの意識はありません。決められたルールの中でどうすれば良いかは考えていますが、そのルール自体を変えるところまでの発想はありません。いざ何かを変えようとするとき、抵抗勢力になってしまうことさえあります。

 私は「現状ではやりにくい」「面倒くさい」というような感覚がなければ、組織変革、改革は進められないと思っています。しかし、現状のキーマン、もしくは「いま頼りにされている人」は、今に合わせることを意識して、現状で最適な仕事の進め方を会得した人たちです。現状が最適な人に「変える」ということを求めても、なかなか変革にはなかなかつながりません。

 「いま頼りになる人」というのは、いくらリーダーシップがある中心人物であったとしても、何か現状を改革しようという時には不向きという場合があります。本音としての現状不満がなければ、改革意欲にはつながらないということは、意識しておく必要があります。

文=citrus ユニティ・サポート 小笠原隆夫