隠れ家ワインサロンのオーナーから学ぶ、心優しい人脈術と会話術

暮らし

更新日:2017/8/14

『ワインの神様がおしえてくれたこと』(ゴマブックス)

 ビジネスの世界においては常に「人脈作り」が大切とされ、数々の成功者たちが「人脈を広げるための秘策」を語っている。それはたとえば「人を紹介してもらえるような自分の売り込み方」のようなものだが、それら耳にするたびに思うのは「そもそも、どこに行けば、人脈を広げるチャンスがあるの?」ということだ。普通に暮らしていて、次から次へと素敵な人を紹介してもらえるラッキーな出会いに遭遇することは、そう多くないから。

 その答えとして、一流の人たちが選んでいる「場」があることがわかる一冊が『ワインの神様がおしえてくれたこと』(ゴマブックス)だ。著者の高岡さんは30歳のとき、元麻布に「Cast78」というワインサロンをオープンさせた女性。看板も広告もない隠れ家レストランだが、夜な夜なさまざまな業界で活躍するゲストが訪れ、高岡さんを介してゲスト同士がつながっていくという。本書はそんなゲストと高岡さんが「人同士をつないだ出来事や思い出」「ワインが人生にもたらしてくれたこと」「仕事で成長するために必要なこと」を語り合うインタビュー集を前半に、後半では飲食業界とは無縁の仕事をしていた彼女が店を開いた理由が語られる。

 登場するゲストは多彩で、牛角の創業者・西山知義さん、ビームスの社長・設楽洋さん、経済評論家の勝間和代さん、フリーアナウンサーの魚住りえさん、サイバードの創業者・堀 主知ロバートさんなど、総勢9名。いずれも偶然による出会いから常連となり、高岡さんの店を「くつろげる、わが家のような場所」と呼ぶ。

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 一粒で二度おいしい一冊だ。読み進めるうちに「惜しみなく、人をつなぐ高岡さんのところには、自然と人が集まってくる」という人脈術と、同時に聞き手である高岡さんの「正直な姿勢で相手に教えを乞い、心を開いて可愛がられる」という会話術のふたつを学ぶことができる。インタビュー中、彼女は次のように賞されている。

「いい意味で男っぽいんですよ。たとえば、誰かに人を紹介して、その後も『必ず私を介してね』という人はすごく多いんですよ。で、その人をパスして直接やり取りをすると、怒る。でも彼女は絶対にそういうことをしない人。むしろ、自分が紹介した人たちがどんどんつながっていくことをうれしいと感じる人」
信国武洋さん(ジョエル・ロブション エグゼクティブソムリエ)

「彼女は、自分の周りの方々をつなげる“キャスティング”のプロだと思います。周りの方に幸せをつなぐことを天職としてお生まれになったのだと思いますよ。私自身も彼女と出会って、新しい世界が開けました」
魚住りえさん(フリーアナウンサー)

 人をつなげることに喜びを感じる高岡さんのもとには、多くの人が「素敵な方を紹介してくださったから」とお礼に訪れ、新たなお客様を紹介してくれたり、ビジネスにつながったりする。見返りを求めず、純粋に「大好きな人同士が仲良くなったら嬉しいな」という気持ちでおこなっているからこそ、結果的に嬉しいご縁を引き寄せられる……幸せな人脈術だ。

 そして、もうひとつ鍵となるのが、彼女の会話術。性別を問わず、どのゲストたちも「高岡さんがかわいくて仕方ない!」という気持ちで話しているのが、文面から伝わってくる。彼女に会うことで癒されつつも、励まして支えたいという想いがある。

「私はお客様にとって母のようであり、妹のような存在でありたいと思っています。アットホームな雰囲気を大切にしていることもあり、母のような人を包み込む温かさは大切にしたいですね。(略)
 ご自身がとても輝いていて、自分の意見を伝えて人に影響を与えたいというタイプの方の場合は、妹キャラで接しています。面倒見のいい人から、かわいがってもらえるような要素は必要だと思います」

 母として、妹として「愛される力」の根底にあるのは、正直さだ。高岡さんのトークから、心は常にオープンにし、弱さや苦しさも見せ、相手の懐に飛び込もうとする気持ちが感じられる。「嬉しい」「ありがとうございます」「尊敬しています」という、ポジティブな言葉が多い。相手が厳しいアドバイスをしても、まるごと受けとめる勇気がある。しかし、相手に合わせるのではなく、自分の意見はきちんと言う。彼女の会話術から、しなやかで強い人だと感じるだろう。

 本書の最後では、飲食店経営は未経験だった高岡さんが、一念発起して店を立ち上げるに至った経緯が語られている。「『人と人とをつなげる伝説のお店』と言われる存在にしていきたい」と語る、情熱的な彼女の生き方は、つい「やりたいことがあるけど、どうせ無理だよなぁ」なんて尻込みする気持ちにカツを入れてくれるだろう。やわらかい笑顔の彼女の内にある、生涯をかけて店を守ろうとする覚悟の強さにハッとする。

 人脈がほしいと思っても、ただ待っているだけではやってこない。ふさわしい場に行くことはもちろんだが、なによりも「紹介してあげたいな」と思ってもらえるような、魅力的な人間になることは必須だ。高岡さんの持つ、喜びに満ちた人脈術と会話術、そして仕事に対する覚悟の強さから、そんな「魅力的な人」になるヒントを得られるだろう。

文=富永明子