「貧困」はもはや他人事ではない…。女性たちが「貧困」に陥ったのはなぜか?【著者インタビュー】

社会

公開日:2017/7/31

『女子と貧困』(雨宮処凛/かもがわ出版)

 「貧困」な「女子」の記事は、ネットニュースではもはや定番だ。お金がないからとボロボロの部屋で暮らしていたり、風俗で働いても貧困は変わらなかったりと、とにかく悲惨なものばかり。中にはどこか「見世物」感が漂う記事もある程だ。

 「インパクトの強いひどい事件が、社会を変えるきっかけになることがあります。でもそれを探すことにやっきになると悲惨競争になってしまうし、怖いもの見たさで読まれてしまう気もしていて。貧困は社会問題であって、決して消費するための娯楽ではないんです」

 こう語る雨宮処凛さんは路上生活者への炊き出しに参加するなど、10年以上も格差や貧困問題と直接向き合ってきた。

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 女性の貧困をテーマにした新刊『女子と貧困』(かもがわ出版)に登場する“貧困女子”たちは、ボロアパートに住み風俗で働いても爪に火を点すような生活、はしていない。そして彼女たちは怠けていたわけでも、遊んでいたわけでもない。なのに「貧困」に陥ったのは、何が原因だったのだろう? 「貧困は社会問題」と語る雨宮さんならではの視点で、語っていただいた。

女性の貧困は、ぱっと見ではわからない

「女性の貧困ってあちこちで取り上げられていますが、『シングルマザーで大変。以上。』みたいな話が意外と多くて。でも若い女性やシングルマザーに限った話ではないし、置かれた状況もさまざま。もはや貧困女性は全世代にいるということを書きたかったんです」

 この本では、8つのケースが紹介されている。原発事故による自主避難をしたことで貧困に直面した加緒理さんや、生活保護を受けながらも「大学に行きたい」と学ぶことを目指すミカさんなど、年齢や境遇は皆バラバラだ。中には長年会社に貢献してきたにもかかわらず、子どもの病気で会社を休んだことを理由に給料の返還を迫られ、1年に3度もの降格処分を受けてしまった女性もいる。その女性・冴子さんは、部長にまで昇進していた。なのに子どもが病気になり、手術と通院が必要だったことを会社が問題視したのだ。

「会社は冴子さんの同僚で、育休を勝ち取った第一号の由紀江さんにもハラスメントをして、退職に追いやりました。女性が9割のアクセサリー会社なのに妊娠したら会社にいられないなんて。ずっと女性社員を使い捨てにしてきたのでしょう。辞めさせて補充して、会社に都合が悪くなったらまた辞めさせていけば賃金も安く抑えられますし。彼女たちは働きたいにもかかわらず、会社側の横暴によって苦しめられてきました。それは決して、自己責任ではないと思います」

 雨宮さんが取材で会った女性はいずれも、ぱっと見お金に困っているようには見えなかったという。ファストファッションとプチプラコスメで十分おしゃれができる時代だから、女性の貧困はわかりにくくなっていると指摘する。

「きれいな身なりで“貧困”って言葉がそぐわない人たちで、誰にも貧しさの影が見えませんでした。でも話を聞いてみると、それぞれ本当に困っている。この本に登場した人だけでなく、貧困状態にある女性は、そうとはわかりづらい」

 極め付きは、この本にも登場するキャバ嬢たちだろう。華やかな日々を送り、同世代のOLたちよりはるかに稼ぎがいい、といった様子をマスコミが喧伝してきた。しかし1日8万円もの罰金を徴収されたり、時給換算するとたったの65円だったりと、ありえない状況に陥っているキャバ嬢もいることを紹介している。

 しかし彼女たちは、「私が諦めればいい」で終わりにしなかった。冴子さんは労働組合の「プレカリアートユニオン」に加入して会社と団体交渉をし、由紀江さんは会社を訴えた。キャバ嬢たちは労働組合の「キャバクラユニオン」を結成し、意味のわからない罰金やセクハラなどと戦うことを始めた。

「声をあげたのは勇気がいることだと思うけど、彼女たちは特別じゃないというか、多くの人がモヤモヤを抱えていると思うんです。会社や組織からおかしなことをされているのはわかっていても、どうしたらいいかわからない。そこで勇気を出して誰かに話したら『あなたがされていることは違法行為で、あなたは悪くない』と言われて、『やっぱりそうなんだ』と目覚めたに過ぎません。また彼女たちのように情報がある支援者や支援団体とつながって、良い方向に向かえた人はほんの一握りで、ひとりで困っている人のほうが圧倒的に多いのではないかと思います。そういう人は支援する組合があることも知らないし、本も手に取ってくれないだろうからつながるすべもなくて。声をあげられない人とどうつながっていくかが、今後の課題だと思っています」

本当に困っていても「助けて」とは言いにくい

 貧困をテーマに約10年取材を続けてきた雨宮さんだが、取材を続ける中でお金がないことに対する恐怖が芽生えたと語る。

「所持金がなくて餓死する事件などを見てきたので、お金がないことが本当に怖くなりました。だから「必要なときに、『助けて』と言える人が強い人」だとこの本でも書きましたが、困っていても助けてと言えない人の気持ちもわかります。『お金がない』って言った瞬間に見る目が変わって、さっと人が引いていくものですから。私だって『助けてと言えるか』と聞かれたら、『言える』と即答できる自信はありません」

 そんな状況だからこそ男性に期待や依存をするのではなく、同じ境遇の女性たちでつながり、情報や打開策を共有していく必要があることを雨宮さんは力説する。

「だからこそこの本は、堅苦しい雰囲気にも悲惨物語にもしたくなかった。手に取りやすいカバーにしたのは、『私にも関係があるのかな』と思ってもらえるようにするためです。本当に貧困状態の人もいますが、『育休が取れない』とかの社会制度の貧困にも触れることで、何が原因かがわからないけれど生きるのが辛い人へのヒントを盛り込んだつもりです」

 貧困はもはや他人事ではない。だから他人の悲惨なエピソードを消費しているうちに、いつしか自身も……ということだってあり得る。しかし「どうしたらいいか」がわかれば、最悪の事態は回避できるかもしれない。女性でなくてもどんな状況であったとしても、手に取ってソンはない一冊だ。

取材・文=今井順梨