涙を“ぽいぽい”してますか? すべての生きる人へ贈る、生きるための絵本 ごとうみづき著『おなみだぽいぽい』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『おなみだぽいぽい』(ごとうみづき/ミシマ社)

■「大人のみなさんへ」

 毎日忙しく働いている大人のみなさん、最近泣いたことはありますか? 我慢して、つらい気持ちに蓋をしていませんか? イライラを、ついつい誰かにぶつけていませんか? 私の替えなんていくらでもいるんだ、と捨て鉢になっていませんか? 何をやっても誰も認めてくれない、と絶望していませんか?

 『おなみだぽいぽい』(ごとうみづき/ミシマ社)は、日々の仕事や、たくさんのやることに追われて忙しい大人が忘れてしまった、心の中にある場所のことを思い出させてくれる絵本です。そこは自分以外誰も入れない場所で、毎日少しずつ固くなってしまった気持ちを優しく包んで、じんわりゆっくり和らげてくれる作用があります。

 大の大人が泣くのはみっともないとか、恥ずかしいとか、自分で決めたり、社会ではそういうことになっているからという思い込みをいったん忘れて、ちょっとだけ時間を作ってこの本を開いてみてください。思っていた以上にトゲトゲした自分の心に驚くかもしれません。涙と一緒にたくさん鼻水も出てしまうかもしれません。そんな普段は表に出てきていないものを、どうか心の中の場所へ全部ぽいぽいしてください。お願いします。

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■「子どものみなさんへ」

 毎日たくさんのことに出会い、学んでいる子どものみなさん、最近泣いたことはありますか? 「自分は他の人と違うのかな?」と思うことはありませんか? どうして自分はみんなができることができないんだろう、と悲しく思うことはありませんか? 叱られて、なぜそんなに怒っているんだろうと感じることはありませんか? 友達なのにどうしてそんなことを言うのかな、と心がぎゅーっとなることはありませんか?

 『おなみだぽいぽい』は、そんなことを感じている子どものねずみが主人公です。その主人公が行くのは、人によってやることが違う、不思議なところです。ねずみが行く場所には大好きなパンの耳が置いてあって、鳥がいます。そこはちょっと難しい言葉でいうと「自浄作用」をするところなのです。

 机に突っ伏して泣いていると、こぼれる涙と吐く息で、机がびしゃびしゃになってしまうかもしれません。 泣いているのを、友達にからかわれるかもしれません。でも、それでいいんです。つらい気持ちを心の奥にぎゅうぎゅう押し込めていると、軽やかに歩くことも、誰かに優しくすることもできなくなってしまいます。そうなる前にこの本を開き、体にくっついた余計なものを、どうか心の中の場所へ全部ぽいぽいしてください。お願いします。


■「そしてみなさんへ」

 嫌な出来事だったり、誰かの悪意だったり、どうにもならない理不尽なことだったり、生きていると「どうしてそんなことになってしまうんだろう」と思うことがあります。うまくいかなかったり、不公平だなと思うこともあります。でもそう感じることが、次に何かをするための糧になるのです。でもその気持ちが溜まりすぎると、つらくなってしまうもの。そういう気持ちは涙と(そして鼻水と)一緒に、心の中の場所へ全部ぽいぽいしてください。お願いします。

 『おなみだぽいぽい』は、そんな本です。涙は苦かったり、しょっぱかったり、甘かったりすることを、ぜひ思い出してください。

文=成田全(ナリタタモツ)