松本清張原作『黒革の手帖』で武井咲が演じる「最凶悪女」のヤバすぎる3つの処世術とは?

文芸・カルチャー

更新日:2020/3/2

 悪い女が跋扈する世の中だ。しかし、松本清張によって描かれたこの女以上の悪女など存在するのか。不朽の名作『黒革の手帖』の主人公・原口元子。テレビ朝日系でドラマ化、現在、武井咲が好演しているこの女こそ、史上最凶の悪女と言っても過言ではない。そんな原口元子の悪女的処世術を、ほんの少し覗いてみるとしよう。

盗んだ金は返さず、さらに脅迫! 常識外れの面の皮

 元々、原口元子は銀行で働く地味なベテラン女子行員だった。15年以上、真面目に働いてきたが、伝票の数字を睨むだけの日々に嫌気がさした元子は、銀行の架空名義口座のリストを黒革の手帖に転記し始め、7568万円もの大金を横領する。普通ならば、横領の事実が発覚するのは、周囲が不正に気づいた時だろう。だが、元子は自らの行いを暴露するのだ。「わたしの問題にあんまりぐずぐずしていると、国税局や警察の耳に入るんじゃないでしょうか」。そんな言葉で支店長から次長、顧問弁護士までを脅しつけ、元子は、銀行から無条件で金を奪いとる。その上、「今後一文も返金を要求しない」という念書まで書かせたのだから、その肝の据わり方は尋常ではない。そして、奪った金で元子は銀座の一等地に「カルネ」というBarをオープンする。「カルネ」とはフランス語で「手帖」の意味。元子に大金をもたらした「黒革の手帖」。そんな店名をつけ、悪びれもしない、その面の皮の厚さは見事しか言いようがない。

ホテルでイイこと……するわけない! 計算づくの色仕掛け

 悪女たるもの、男を騙すことなど朝飯前。たとえば、「カルネ」の客 楢林院長の経営する病院に脱税の疑いがあることをつかむと、元子は色仕掛けで迫る。ホテルまで乗ったタクシー会社の名と車の番号をメモし、部屋の女中と話し込みわざと顔を覚えさせ、敷布団のシーツを足蹴にして2人が寝たかのように工作して、後々、楢林から「恐喝」として訴えられないよう、その芽を摘んだうえでの脅迫。元子との一夜を期待していた楢林の退路は、ホテルに着いた時点で、すでに残されていなかった。色仕掛けは計算づくで鮮やかに。悪女は恐ろしいほど、悪知恵が働く生き物だ。

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売られたケンカに勝て!! 欲望と執念でライバルを蹴散らす

 勝気な性格と上昇志向を持っていなければ、女として、のし上がっていくことはできない。そもそも元子が楢林院長を脅すに至ったのは、「カルネ」にホステスとして雇った山田波子がきっかけだった。波子は男をたぶらかす手腕に優れた女。楢林院長を籠絡し、「カルネ」と同じビルに豪華な店をオープンさせようと計画していたのだ。しかし、元子が楢林から金を強請った結果、楢林は波子から手を引き、波子の計画は頓挫することになる。パトロンを失って半狂乱の波子に「おぼえておれ、この性悪女!」と掴みかかられ、顔を引っかかれて 流血しても元子はちっとも懲りない。毅然たる態度でバーテンを呼びつけ、波子を取り押さえさせると、「波子さん。そんなに費った(つかった )お金が惜しかったら、あんたの開く店、わたしが買ってもいいわよ」と、笑みを浮かべる元子。夜の世界はそんな勝気な女たちがはびこる戦場なのかもしれない。

 元子の悪女的処世術の数々に思わず、背筋が凍る。ドラマは書籍とは展開が異なるようだから、両者を見比べながら、“稀代の悪女”に魅せられてはどうだろうか。悪女の生き様をみるのは、なんと楽しいことだろう。現実世界では決して出会いたくはないけれども。

文=アサトーミナミ
イラスト=Nanami