地味だけど実はエロい隣の席の眼鏡っ子。彼女は誰の指示でボクを挑発してくるの? 『ボクだけが知ってる一宮さん』

マンガ

更新日:2017/8/14

『ボクだけ知ってる一宮さん』(甘詰留太/白泉社)

 幼なじみの高校生、カップルではないがSMプレイを通じてその絆を確かめ合う人気マンガ『ナナとカオル』。作者の甘詰留太、待望の最新作『ボクだけ知ってる一宮さん』(白泉社)の1巻が発売された。今回もまたフェチ炸裂で、『ナナとカオル』を上回るエロさとピュアさである。

 エロと純愛。一見、両立しそうにない二つを見事に描ききるのが甘詰氏のすさまじさ。あらすじだけ見れば男性向けのようだが、女性にも強くおすすめしたい作者の一人である。

 本作の主人公・仁科忠寅(ただとら)、通称トラは、前作の主人公・カオルと同様、モサくて冴えない高校生。キモいだの、変態だの、見た目のイメージで散々な言われようをしている“ぼっち”だが、登校する唯一の楽しみは、隣の席の一宮未純(いちみや・みすみ)を観察すること。

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 マニア受けさえしない地味な眼鏡っ子だが、意外と胸は大きく、唇はつやぷる。その一挙手一投足が妙にエロいことに、トラだけは気づいていた。しかも、未純もトラの視線に気づいて挑発するようなそぶりを見せてくる。え、わざとなの? それともボクの自意識過剰? 思わせぶりなのに、距離はつめてこない。

 翻弄されるトラをよそに、早々に読者にだけ明かされる未純に指令する存在。「これでこれからもアイツにエロい目で見てもらえるねw」とメッセージを受けて艶めかしく微笑む彼女に、前作からのファンなら「もしや彼女にはご主人様がいるのでは……!?」と妄想をかきたてられることだろう。

 前作で、ナナとカオルは、学校での立ち位置こそ天と地ほどの差はあったが、幼なじみのお隣さんという点で対等だった。近すぎて恋愛感情を自覚できず、好きと言葉にすることさえできない2人が、SMを通じてしか気持ちを確かめ合えないじれったさに、エロさが募った。

 だが今作では、トラは未純が本当はどんな人か、どんな意図でトラを見て、煽っているのか、何もかもがわからない。触れることも、まともに会話をすることもできない恋情が妄想をかきたて、視覚で読者を挑発する。

 一方で、ぼっちだったトラの人間関係も広く変化する。リア充男子だと思いきや、意外にマニアな性癖をもった三村。毛嫌いしていたトラにあることを庇われたのをきっかけに、トラを気にしはじめる美少女・十亀。女子の盗撮写真流出事件で、トラが根拠なく犯人扱いされたとき、力になってくれたのは未純と彼らだった。自己評価は低いけれど、そのぶん誰かを貶めることもなく、むしろ自分の立場を逆利用して他人を守ろうとするトラの侠気に、周囲も読者も惹かれていく。そして願ってしまうのだ。トラの想いが報われることを。彼が愛されることを。

 ……とはいえ。前述の、未純の背後に見える存在(おそらく男!)が謎と波乱の予感を呼ぶ。ボクだけ知ってる、とタイトルにはあるのに、きっとトラはまだ何も知らない。一度は傷つくことになるんだろう彼の未来を想像するとかなり胸は痛むのだが、そこを乗り越えてどんな成長を見せてくれるか、まだまだヴェールに包まれた未純のエロさがどんなふうに炸裂するのか、そちらへの期待のほうが断然強い。

 トラは今後、どんな彼女を知っていくのか。どんな“ボクだけ”を見ていくのか。前作以上に期待大の作品だ。

文=立花もも