「最後まで目が離せない」と書店員も大絶賛! 仕掛けだらけの青春ファンタジー 虻川枕著『パドルの子』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『パドルの子』(虻川枕)

 応募総数694作の中から選ばれた第6回ポプラ社小説新人賞受賞作『パドルの子』(虻川枕)。最終選考に残った5作の中から「粗削りだが企みのある小説」「新しい作品を世に送り出すことのできる、作家としての可能性を感じる」と満場一致で受賞が決まった本作は、旧校舎の屋上でパドル=水たまりに潜る行為を行うことによって、世界を少しずつ変えていく少年少女の物語。

 選考委員長でもあるポプラ社代表取締役社長・長谷川均氏も授賞式にて、「〈春は化け物〉という書き出しの一文からして挑戦的。読み進めていくほどいろんな仕掛けがあることがわかり、その中で少年少女を瑞々しく描き出している。ポプラ社から刊行するにふさわしい作品」と大絶賛。

「水たまりに潜って、新しい世界を、混ぜちゃうの。こっそり、ね」

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 そう言って、中学2年生の主人公・耕太郎をパドルにいざなう、学校一の美少女・水原。危険と隣り合わせの仕事をする父、帰ってこられない父を待ちわび狂いかける母、耕太郎を標的に執拗に“指導”をくりかえす英語教師・大森。そして別れに後悔を残すかつての親友。耕太郎はその心に重たいくさびとなっているものを、すべて、希望する方向へと塗り替えていく……のだが。やがて、水原のパドルに込められた切実な願いの正体を知る。ボーイ・ミーツ・ガールの青春ファンタジーでありながら、巧みな叙述ミステリーでもある本作。

その仕掛けと秘められた想いに、発売前から称賛の声が寄せられている。そのなかから、書店員の声を一部ご紹介しよう。

散りばめられた伏線が回収されていくたび、あぁ、終わらないでくれ…と願ってしまう。
これはパドルで叶えてもらえませんか。
真っ青に彩られた一夏が本当に切ない。
(ジュンク堂書店 吉祥寺店 田村知世)

「パドル」とはどのような行為かがわかってきたあたりから、ググッと引きこまれていきました。と同時に、ひとつひとつの意味が明らかになっていくたびに、作りこまれた物語としての魅力が増していきます。
そして、終わってみれば、清々しいまでに直球のボーイ・ミーツ・ガール。
「読ませる力」を感じました。次回作も楽しみです。
(七五書店 熊谷隆章)

物事が開発され、進化していく今日。「今、生きている環境があたりまえなのか」と深く考えさせられた。現状がすべてではなく、正しいことと、そうでないことを見極める目が必要なのだと。
主人公はじめ、登場人物たちが瑞々しい! 真新しい風を感じるこの物語を、これからを担う人々にぜひ読んでいただきたい。
(ジュンク堂書店 柏モディ店 本多千春)

ものすごく非現実的に見せて、根底に見知った世界が見え隠れしていて、この世界がどうなっていくのか、もともとどんな姿をしていたのか、最後まで目を離せませんでした。
とても不思議でおもしろかったです。
(若草書店 小木駅前店 平田)

うっかり見過ごしてしまいそうな、いくつものささいな異世界。最後に主人公が下す決断に、読者は彼の大きな成長を見ます。世界から見たら、本当にちっぽけかもしれませんが。
主人公たちが「パドル」することで、見たことのない景色が何度も私の前に現れました。
(丸善松本店 田中しのぶ)

 雨はじめじめしていて、好きじゃない。そんな人も読めばきっと、空に浮かぶ雨雲や道端の水たまりに目を惹かれ、大切な人を思い出すこと請け合いの本作。夏の読書にぜひ、手にとって見ていただきたい。

文=立花もも