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なぜ「ニセ科学」にだまされてしまうのか? 水素水、がん放置療法…

『暮らしのなかのニセ科学』(左巻健男/平凡社)

 ここ何年か話題だった水素水だが、最近は店頭からかなり姿を減らしたように思う。「悪玉活性酸素を無害化する」などと強調していたが、その効果に対して以前から疑問を呈されており、公的機関である「国民生活センター」や「国立健康・栄養研究所」からも警鐘が鳴らされている。しかし、それでも求めるユーザーがいて、そんな人が先日もスーパーで熱心に水素水の入荷を問い合わせており、店員も困っていた。

 本書『暮らしのなかのニセ科学』(左巻健男/平凡社)は、法政大学教職課程センター教授の左巻健夫氏が、水素水のように科学的な装いをしつつも、実際にはその根拠が怪しい事例、いわゆる「ニセ科学」を徹底解説する一冊だ。特に身近な健康・医療に関する話題を取り上げているので、「科学はよくわからない」という人たちにも興味をもってもらえるはず。

 まず水素水については「疾病のある患者に対し有効性を確認する予備的研究は行なわれている」ということではあるが、まだ立証されてはいない。当然ながら、そんな段階で厚生労働省から医薬品としての認可は受けられず、それでいながら「病気が治る!ダイエットに効果がある!」などと称して販売されている。これは現時点では薬機法違反であり、このような詐欺的商法は間違いなく「ニセ科学」商品であると断言したい。

 なお、本書によると実のところ、水素は摂取せずとも体内で作られているという。大腸の水素産生菌により、毎日0.5~0.8リットルの水素が血液を循環し吸収されており、これは水素水1リットルから摂取できる水素量20ミリリットル程度と比べてはるかに多量である。もし水素に活性酸素除去効果があるのなら、水素産生菌に期待すればよいのでは。そもそも、そういうことなら外部からの摂取も不要と思うのだが……。

 次に注目したい事例は「がん治療」だ。著名人が医学的に立証されている「手術・薬物療法、放射線治療」からなる「標準治療」を受けずに、「代替治療を選択し、かえって死期を早めた」との報道を目にする機会は少なくない。本書では例としてアップル社の故スティーブ・ジョブズが受けたインチキ療法を紹介している。

 ジョブズが当初は手術を拒み、自然療法を続けていたのは当時話題だったと思う。その内容は「数ガロンの果物、野菜、子牛の生の肝臓を混ぜた自然食を食べ、毎日コーヒー浣腸をして有害な体毒をデトックスする」というもの。しかし結局、彼は回復せずに亡くなっている。また「(米国)国立がん研究所もその食事療法で治療した患者の記録を検証したが、効くという証拠はどこにもなかった」ということだ。特にコーヒー浣腸は一時期、日本でも健康雑誌などを賑わせたが、実際の効果は一切なく、また「素人が直腸から何かを注入するのは大変危険」とされている。便秘解消のそれとは全く異なる行為なのだ。

 しかし、彼ほどの知性を持つ人間が、なぜそんな「ニセ科学」に傾倒してしまうのだろうか。著者は認知心理学者である菊池聡氏の論説を引用し「事実でないことでも事実のように信じてしまう思考傾向は、もともと人の心理システムに組み込まれており、簡単には騙されない思考こそ、そのシステムに逆らっているととらえる方が、より適切で建設的だと考えられる」と解説。それは脳が「信じたがる」習性をもっており、騙される原因になるということだ。それなら、「騙されない思考」とはどういうものなのか。

 そこで著者は、「自分の考えへの批判的な意見も意識的に探して、場合によっては自分の考えを修正することも必要」と解説。物事は常に多角的に検証するべきなのだ。そうすれば「ニセ科学」に限らず、騙されることはかなり防げることだろう。勿論、そのための知識を蓄えておくのが大切なのは言うまでもない。小生も、あらためて学び直さねば。

文=犬山しんのすけ

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