シェイクスピアは7人いた!? 『BECK』の作者による、新解釈の文豪サクセスストーリー

マンガ

公開日:2017/8/1

『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』(ハロルド作石/講談社)

「ロミオとジュリエット」「マクベス」「オセロ」など、時代を超えて語り継がれる名作を数多く残した、ウィリアム・シェイクスピア。彼の著作は日本でも舞台化されているため、その名を知らない人は少ないはずだ。しかし、彼の出自について知っている人はどれくらいいるだろう。

 彼が活躍した16世紀のイギリス・ロンドンは超格差社会。庶民の身分は固定化され、そこから這い上がるのは非常に困難だった。そんな中、庶民にとって唯一のチャンスが、大衆の娯楽として支持されていた芝居で一発当てること。だが、それに携わることができる人間は極わずか。一発逆転を夢見る劇作家志望者はあふれるほどいたが、いずれも門前払い。芝居を書くには才能と学識が非常に高いレベルで求められていたのだ。

 そんな時代において、シェイクスピアはあっという間に頂点へと昇りつめていった。しかし、彼は田舎の出であり、十分な教育を受けていない。では、いったいどうやって後世に名を残すほどの劇作家になることができたのか。

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 そんなシェイクスピアのサクセスストーリーを描いているのが『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』(ハロルド作石/講談社)。著者であるハロルド作石氏は、『BECK』や『RiN』(ともに講談社)などで知られる人気マンガ家だ。『BECK』ではミュージシャン、『RiN』ではマンガ家を目指す少年の姿をそれぞれ描き、夢に向かう苦労や興奮を読者に伝えてくれた。ハロルドさんは、いわばサクセスストーリーの名手。そして、今回挑戦したのが、歴史に残る偉人、シェイクスピアというわけだ。

 本作は史実を元に、ハロルドさんならではの大胆な解釈を加えた物語。シェイクスピアの成功の影には、6人の重要人物がいたというのだ。経済面を支える親友〈ワース〉、類まれなる詩の才能を持つ〈リー〉、聖書や神話に関する豊富な知識と家事能力でサポートする〈ミル〉、海外の本から得た知識によって物語の種を提供する〈トマス〉、大人顔負けの批評眼を持つ〈ケイン〉、楽器を操り見事な歌唱力を備える〈アン〉……。この6人の支えのもとに、シェイクスピアは見事な芝居を書き上げるのだ。そう、タイトルにある“7人”とは、彼らのチームのこと。一人ひとりが互いの欠点や足りないところを補い合い、格差社会からの脱出を夢見る。まさに文学界の下克上物語だ。

 第1巻でようやく仲間が揃い、7月6日に発売された第2巻では、いよいよ彼らの快進撃がスタートする。劇作家としての道を歩みはじめるシェイクスピアが、そのキャリアのスタート作として選ぶのは『リチャード三世』。怪異な風貌を持つものの、非常にキレる頭脳を使い昇りつめていくひとりの男の栄光と悲劇を描いた作品だ。はたして、シェイクスピアは無事に芝居を完成させ、観衆をわかせることができるのだろうか――。

 本作はハロルドさんの創作とはいえ、登場するシェイクスピアの作品や歴史的背景は史実に則ったもの。才能を持ち寄り少しずつ前進していく彼らの生き様を楽しみつつ、作品の創作過程や歴史ロマンにも触れることができる。歴史モノというと少しハードルが高いように思う読者もいるだろう。しかし、本作は痛快なエンターテインメント。7人のシェイクスピアが力を合わせる姿に、興奮必至なはずだ。

文=五十嵐 大