読むだけで白飯が欲しくなる! 焼肉をさらにおいしく味わうための焼き方のコツって?

食・料理

公開日:2017/8/11

『焼肉のすべて』(田辺晋太郎/宝島社)

 とにかくがむしゃらに肉を食いたい。仕事で嫌な目に遭ったとき、疲れが絶頂に達したときなど、何だか我を忘れて無心に肉をかっ喰らいたい衝動に駆られるときがあるのだ。

 スタミナ源としてもおなじみの肉だが、定番の食べ方といえばやはり「焼肉」だろう。火で炙り、タレをちょこんと付けて口の中いっぱいに広がる旨味を味わう瞬間は、幸せ以外の何ものでもない。

 しかし、僕らはどれほど焼肉のことを知っているのだろうか。焼肉屋のメニューを見ると、見たことのない部位の名前に気づくときもあるし、そもそも肉のポテンシャルをより引き出すための焼き方を誰かに教わったこともない。

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 そんな思いを巡らせていたところ、ある本が目に留まった。肉マイスター・田辺晋太郎さんがまとめた『焼肉のすべて』(田辺晋太郎/宝島社)だ。写真入りで牛肉や豚肉の部位、効果的な焼き方、おすすめの焼肉店などをこと細かに紹介してくれる一冊。読んでいるだけでも、今すぐ白飯をよそいたくなるほどの出来となっている。

◎ミスジやハチノスの上を行く? 肉マイスターの教える「超希少部位」

 本書では、牛肉や豚肉の各部位が、それぞれの希少度や価格帯と共に紹介されている。写真付きで読んでいるだけでも舌先が刺激されるほどだが、その中から、特に希少な部位を紹介してみよう。

 上図は、本書を参考に筆者が各部位を表にまとめたものである。希少度というと、人によって異論はあるだろうがそこのところはご了承いただきたい。

 よく見聞きする名前もある中、希少度の高い部位の一つに「ウワミスジ」がある。ミスジといえば、サシの入った牛の肩甲骨の内側にあたる希少部位だが、名前が似ているとはいえ著者は「似たようなものだと思ったら大間違い」と述べる。

 ウワミスジは、ミスジよりさらに希少な「超希少部位」である。肉質はきめ細かく繊細で、サシが少ないので脂が残らず後味もさっぱり。著者がおすすめするのは「ゆっくりと表面を焼き、中はレアで食べる」という食べ方で、薄切りならさっぱりと塩ダレで、厚切りなら塩やワサビ醤油で食べるのが絶品だという。

 さらに、内臓系の部位で希少度が高いものとされている中では、牛の第二の胃「ハチノス」と第三の胃「センマイ」をつなぐ「ヤン」がある。

 ハチノスの上についているコブ状の部位で、1頭から取れるのは何と数百グラム。著者がいうには「噛むと口の中に、クセの少ないほんのりとした脂の甘みが広がる」そうだが、表面がカリカリになる程度に焼いてから味噌ダレか塩ダレで味わうのが、ベストな食べ方だそうだ。

◎レモン汁は網に塗る! さらにおいしく味わうための焼き方のコツ

 焼肉屋といえば、炭火で肉をじっくりと炙るのも楽しみの一つである。網に載せてから数秒間~数分間、焼き加減を見極めながら対峙する時間があるからこそ、肉をかっ喰らう喜びも不思議と増してくる。

 ベストな焼き方は人それぞれだろうが、本書では肉マイスターの著者が、より深くおいしく味わうための焼き方をいくつか提案している。

 例えば、脂の多い肉を炭火で焼く場合には「網の一か所ではなく、ひっくり返しながら場所を移して焼く」のがコツだと著者は述べる。これは、炭の炎が燃え上がることでできるススから肉を守るため。肉の脂がしたたり落ちたことによりとっさに炎が上がった経験もあると思うが、それを避けるために炭火の状況を見極めながら場所を移す必要もあるということだ。

 また、目からウロコなのは「レモンの汁を網に塗る」という焼き方だ。レモン汁に含まれるクエン酸は「たんぱく質の凝固を阻害するので、網に肉がくっつきにくくなります」と著者は解説する。薄切り肉の場合は特に、網に焦げ付いてせっかくの肉の表面がボロボロという場面にも出くわしがちだが、これによりおいしく味わえるようになる。ちなみに、レモン汁ではなく冷麺などにかけるお酢でも代用できるそうだ。

 焼いた肉をかっ喰らう。ただそれだけと思いがちだが、世の中とは不思議なものでシンプルなものほど奥が深い。老若男女を問わず「焼肉」の響きだけでお腹が鳴る人たちは少なくないだろうが、本書はそんな人たちの食欲をさらに刺激してくれる一冊である。

文=カネコシュウヘイ