地獄が過酷なイメージなのは、ひと昔前の話!? ほりのぶゆき氏が描く、イマドキの「地獄」

マンガ

公開日:2017/8/12

『阿鼻叫喚!!ゆるふわ地獄』(ほりのぶゆき/小学館)

 「お盆」に故郷へ戻って墓参りをするという人は多いだろう。それは「お盆」に先祖の霊が戻ってくるのをお迎えするという風習が元にあるからだが、そもそも霊はどこから戻ってくるのか。「死んだ人がどこへ行くのか」は古来より答えの出ない永遠のテーマだが、一般的には「天国」と「地獄」の存在がよく知られている。

 ご存じの通り、生前に功徳を積めば天国へ、悪徳を積めば地獄へ向かう。特に地獄に関しては昔から多くのメディアに扱われ、現在も「閻魔」の名を冠した少女が対象者を地獄へ流す『地獄少女』の新作アニメが2017年7月から放送されている。悪人を裁く「地獄少女」の存在は恐怖の対象で、地獄のイメージはそれが基本だろう。しかし地獄の管理者たちの生活を面白おかしく描いた『鬼灯の冷徹』のようなギャグ漫画もあり、その捉えかたは多種多様。こうした流れの中で、漫画家生活30周年を迎えるギャグ漫画の巨匠・ほりのぶゆき氏が『阿鼻叫喚!!ゆるふわ地獄』(ほりのぶゆき/小学館)で、新たな「地獄絵図」を描きだした。

 地獄をテーマにした作品の場合、地獄側の視点から描かれたものが多いが、本作は地獄に堕ちた「亡者」の「高村君」が主人公。そして冒頭、高村君が地獄で感じたのは「これが生前恐れてた、あの地獄かね?」であった。なぜならあの有名な「針山地獄」では、まるで看護師のようなおばあさん鬼が採血をするかのごとく針を刺し、痛みがあれば「ごめんなさいね~」と詫びてくる。彼にとっては生前の、病院でのひとコマにしか思えなかったのだ。顔なじみのベテラン亡者「小野さん」によれば、現世同様に地獄も不景気なのだという。腕のいい職人鬼たちのリストラや「亡者にやさしい地獄を」と訴える亡者たちの決起集会などにより、現在のゆるふわな「ゆとり地獄」が誕生したのだ。

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 この有様に憤慨した高村君は「閻魔大王」に直訴を試みる。しかし、登場したのは「委託でやっている」というサラリーマン然とした閻魔様であった。曰く「怖い地獄も当時の亡者の望みに応えた結果」なのだという。高村君は自らが昔の責め苦を体験することで、閻魔や亡者たちの意識を改めようとするが、かえってドン引きされてしまう。

 その後も高村君は「満員電車地獄」や「行列地獄」など、現世とあまり変わらない地獄を味わいながら不満を小野さんにぶつける日々を送る。たまに地獄の開業医・加賀美瑠璃から地獄で最も激しい責め苦を加えられるも、それはあくまでイレギュラーなものだった。そんな中、閻魔が任期満了で退任することとなり、新たな閻魔に就任したのは「鉄鬼」と恐れられた金原であった。金原はゆるふわ地獄の原因が、たるんだ鬼たちにあると見て、彼らに激しい特訓を課す。結果、鍛え上げられた鬼たちが誕生して怖い地獄の復活かと思われたが、中身までが変わるわけではなくいつもの地獄が繰り返される。この状況に絶望した金原はわずか3ヶ月で辞任。最終的に、亡者たちに推される形で加賀美瑠璃が新閻魔に就任するのであった。

 いつしか亡者代表として新閻魔・瑠璃のサポートをするようになっていた高村君は、彼女から亡者の生前の行状を映す「浄瑠璃鏡」を渡された。小野さんが最凶のシリアルキラーだった事実に戦慄しつつ、自分の生前を知った高村君は愕然とする。なんと彼は「何もしていなかった」のだ。瑠璃曰く「何もしてないから地獄に堕ちた」のだと。そしてこのゆるふわ地獄「究極の責め苦」とは、「亡者自らが陥る何もしない地獄」だったのだ。

 当初は本作を「地獄をネタにしたギャグ漫画」程度に考えていたのだが、とんでもなく深いテーマが隠されていた。この世に生を受けた以上、何も成さずに生を終えればそれだけで罪になる。地獄に堕ちないためにも、今を懸命に生きようということを、本書は伝えているのかもしれない。ただし、あくまでこれは「ギャグ漫画」であることをお忘れなく。

文=木谷誠