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福岡出身51歳バツイチと茨城出身31歳箱入り娘が『東京の夫婦』になったら…

『東京の夫婦』(マガジンハウス)

 福岡出身の51歳バツイチ男性が、20歳年下の茨城出身の箱入り娘と東京で夫婦になる。バックグラウンドも住む世界もまるで違う2人が出会うことができたのも東京だからかもしれないし、互いに縁の薄い土地で当たり前のように新しい暮らしを作っていけるのも東京だからなのかもしれない。

 その男性とは、作家、演出家、俳優とマルチに活躍する松尾スズキさん。普通自動車免許を持った一般女性である妻のM子さんとの結婚生活を綴った新刊エッセイ『東京の夫婦』(マガジンハウス)は、ある意味、寄る辺のない東京の気配だからこそ見えてくる「夫婦のあり方」を描く一冊だ。

 印象に残るのは、松尾さんが結婚の本質を見据えるまっすぐな目線だ。重度の認知症になった親の世話、子供を持つことについて、自分が先に死ぬであろうことの申し訳なさ。なんとなく宙ぶらりんにしがちな数々のことに、他人と「家族になる」選択をしたからこそ、核となる答えを持たなければならないのが結婚というもの。凸凹はあってもちゃんと言葉に出して、正面から向き合う夫婦の姿がいい。

「孤独でなくなることで自分を知る」「たまたま命がある。いろんな制限の中で精いっぱい生きる」「派手な失敗をしたとき、少なくとも笑ってくれる人間が、そばにいるかどうか」…そんな、松尾さんの感慨にもいちいちうなずく自分。誰かと生きるという決断は息苦しいときもあるけれど、やっぱりちょっと心強い。

 ちなみにこのエッセイ、ファッション誌『GINZA』での連載をまとめたもの。『GINZA』といえば、いわゆる愛され系ではなく、モードなハイエンドファッションが中心で、個人的な観測値でいうならば、この手の雑誌を愛読する女性読者は「なにがなんでも結婚!」というわけでもない。そんな彼女たちにこの連載は人気だったというが、もしかするとそれは松尾さんが「妻だから」「夫だから」という意識ではなく、「お互いに欠けている部分を補いあう」ことを大事にしているからかもしれない。松尾さんは年下妻への感謝はもとよりリスペクトを欠かさない。そのフラットな関係が女性誌で「男性が結婚を語る」というなかなかセンシティブな状況を打破するツボだったんじゃないだろうか。素直に目線を重ねて(むしろ松尾さん側に)、「こんな結婚だったら、私もしてみたい…(というか、できるかも)」なんて思う女子、案外多かったと思うのだ。

 松尾さん夫婦は「無宗教で、子供を持たないことを選択し、ただひっそりと死んでいこうと決めた」が、100組の夫婦がいれば100通りのやり方、生き方があって当たり前。松尾さんたちと同じ考え方の夫婦もたくさんいるだろうが、当然ながらその感触はちょっとずつ違う。東京の空の下、さまざまな夫婦がひしめきあっているのだと考えると気分がラクになるし、なんだか面白くなってくる。

文=荒井理恵

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