「命令」されるとやる気を失う…命令を「相談」「依頼」に変えるひと手間が大切

ビジネス

公開日:2017/8/16


 ある会社の社員が「いつも命令されるばかりで、仕事のやる気が出ない」と言います。上司があまり部下の話を聞かない人だそうで、説明がないまま一方的な指示命令をされることが多いそうです。

 上司のマネジメントの仕方としては、部下の気持ちをもう少し考えると良いとは思いますが、組織というのは基本的に上司からの指示命令で動くものです。そう考えれば、一方的に命令されるのが当然のこととも言えます。

 会社で仕事をする限り、上司がいない人は組織トップの社長だけです。それ以外は役員であっても部長であっても、もちろん一般社員でも、必ず誰かしらの上司がいます。その会社の仕事のスタイルや権限委譲の状況、上司の性格や考え方など、様々な要素で違いはありますが、その上司からの指示命令が全くない会社組織というのはありえません。

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 また、上司からの明確な命令ではなくても、例えば社内手続きや提出書類であれば、忙しかろうがやりたくなかろうが、組織の決まりとして問答無用でやらなければなりません。自分の意志とは無関係ということでは、命令に近いと言えるでしょう。こんな命令がつきものなのが会社というものです。

 この「命令ではやる気が出ない」という何人もの人たちも、「人から頼られる」「相談される」ということでは、何とかしようとやる気が出ると言います。「命令」も「相談」「依頼」も、他人から言われたことに対して何か行動するということでは同じはずですが、ちょっとのニュアンスの違いで受け止め方がまったく違います。

 ちなみに、私たちのように独立して個人で活動するコンサルタントは、基本的に「命令」されることはありません。仕事が始まるきっかけは「相談」もしくは「依頼」ですし、その後は契約に基づいた約束の中で仕事をします。結果を求められますが、そこに向けたやり方は議論をしていく中で決めていくか、多くの部分で任されることが多いです。

 社外の専門家として仕事をする中で、「やる気が出ない」などと言えないのは当然ですが、会社に属して仕事をする人たちが「やる気をなくす」という命令や強制、無理強いのようなことはほぼありません。必ず話し合い、調整をしていく中で物事を決めていきます。だからめったなことではやる気はなくなりません。

 仕事を進めるプロセスで、必ず自分の考えが反映される余地があり、反映されなくてもそれが納得できる議論や説明があります。その点が企業勤務の人たちとは一番違うところです。

 このように、人というのは「強制される」ということを本能的に嫌います。「自分で決められない」ということが一番不満やストレスにつながります。

 しかし、一見強制されているように見えても、それを受け入れるか否かを自分で決めていれば、それは強制とは言えません。もし一方的に言われても、お互いが考えていることのギャップが少なければ、それも強制とまでは言い切れません。

 本当の強制というのは、自分と意見が違うことに対して、反論の余地や自己決定の余地が一切ないようなものであり、それは確実に人のやる気を失わせます。

 今まで私がいろいろな企業を見てきて、「命令」や「強制」が多い企業は、やはり社員に覇気がなかったり、人材が育っていなかったり、業績自体も今一つだったりします。しかし、指示命令を否定しては組織自体が成り立ちません。

 マネジメントや人材育成がうまい会社では、この「命令」を「相談」「依頼」のニュアンスに近づける努力をしています。上司の立場で指示命令としてやらせなければならないことがあっても、始めは「相談」の形をとって一緒に考えるプロセスを設けたり、「依頼」の形をとってやり方を任せて考えさせたりします。

 結論はすでに決まっていて、そこに誘導するようなこともありますが、自分で考える、意見を交わすというプロセスをとると、納得感が増してやる気を失ってしまうことを防げます。

 もちろんマネージャーの手間や労力は増えますが、業績、育成、モチベーションなど、多くのことでプラスに働きます。

 一方的な「命令」にほんのひと手間加えると、それが「相談」「依頼」になります。人のやる気を損なうことがなくなります。マネージャーがその工夫を続けると、組織内のいろいろな課題が良い方向に向けられると思います。

文=citrus ユニティ・サポート 小笠原隆夫