4人の芥川賞・直木賞作家を唸らせる若林正恭の筆力

エンタメ

2017/8/18

7月14日に発売するやいなや、一週間を待たずして品切れ店舗続出&重版となった『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』。

お笑いコンビ・オードリーの若林正恭による5日間のキューバ旅行記だが、ただの「芸能人による旅行エッセイ」ではない。ニュース解説をお願いするために個人的に雇った家庭教師とのやり取りをきっかけに、「自分とは別のシステムで生きる人々を見てみたい」と単身キューバへ乗り込んだというのだから、その底知れない行動力と思考の深さに驚きだ。

そんな若林と親交が深い4人の小説家は、本書をどのように読んだのだろうか。

自身も芥川賞受賞と同時に芸能活動を始め、旅番組のレギュラーを持つ羽田圭介氏はこう語る。

「テレビっていう資本主義ど真ん中の場所で戦ってきたぶん、社会主義国のキューバで見聞きしたことを、普段自分がいる場所と比べる目線をたくさん持てている。だからそこで得た発見を素直に書いていくだけで読み応えのある本になっていると思うんです」
(『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)9月号より)

ブレイクしたのが30歳前後という共通点があることから、若林を人生のモデルにしている部分があるという羽田氏は、本書を読んで同じ表現者としても大きな刺激を受けたと語っている。

若林にとって憧れの存在であり、現在も交流を深めている藤沢周氏は、本書を読み「新幹線の中で読みながら泣いてしまいました。こんなに奥深い紀行エッセイは、これまで読んだことがない」と絶賛している。

カバーニャ要塞で悠々と寝ている野良犬を見て、若林さんは“ねじれた自由”について思考していく。そして、今の自分、日本での自由とは何かを、お笑い芸人という立場や、経済といったフィルターを剥がし、ひとりの人間として追っていく。その手つきは、この世界を生き抜いてきた若林さんならではのものですよね」
(『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)9月号より)

飲み友達としてプライベートでも親交の深い西加奈子氏は、キューバから帰国した若林に「早く読みたい!」と催促したとか。

「帰ってきた若林さんに話を聞いたら『そんなキューバあるん!?』って衝撃だった。自分が行ったキューバ旅行とはぜんぜん違うことを体験されていて。ニューヨークで『夢を叶えろ』って街中から言われ続けてる気がしたっていうのも、そんなこと考えたこともなかったし。そういう若林さんが感じたことをそのまま書いて欲しかった」
(『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)9月号より)

「人見知り」や「人間嫌い」のイメージがある若林だが、西氏に言わせるとそんなことはないという。「本当はすごく泥臭いというか、生身のぶつかりが好きな人なのかなっていうのは思っていて」。本書の中にもその嗜好がにじみ出ていると感じたという。

朝井リョウ氏は本書について「あらゆる思考へのそれぞれの答えに強い説得力がある」と語り、その理由を「聞こえの良い借り物の言葉ではなく、シンプルだがその人の頭と体を通過したことがよくわかる言葉が使われているから」だと読み解く。

「中でも印象的なのは、人々の表情に関する描写だ。著者はカストロやゲバラが率いた革命軍の展示に触れ、彼らが“命を使っている”目をしていると感じる。~長寿国の日本では、命を“使う”というより“延ばす”イメージがある。それほど成熟した社会に生きているからこそ命を使う人間でありたい――著者の誓いに共感が迸る」
―(「読売新聞」8/6朝刊より)

初の書き下ろし単行本となる本書は芸人・オードリー若林を内包する若林正恭本人の自由な発想と表現が詰まっている。お笑い芸人として生き抜いてきたからこそ見える地平・描ける世界。本書を皮切りに、今後も独自の目線で世界を切り取っていく若林から目が離せなそうだ。