金魚を飼うなら「ドンブリ」?! その意外に人懐っこい生態と、金魚と幸せに暮らす方法

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更新日:2018/3/1

『ときめく金魚図鑑』(尾園暁:写真・文、岡本信明:監修/山と溪谷社)

 縁日の屋台で、金魚すくいに興じた思い出のある人は多いだろう。小生も学生時代に、そうして捕ってきた金魚を育てていた。「金魚すくいの金魚はすぐ死ぬ」──そんな印象を持つ人もいるだろうが、案外と長生きするもので、7~8年育て続けた記憶がある。人の顔を見ると、すぐに水面で口をパクパクさせてアピールして、意外と人懐っこい姿がとても可愛かった。

 もし「犬猫と比べて金魚なんて、一緒に遊べないからつまらない」と思っているのなら、是非ともこの『ときめく金魚図鑑』(尾園暁:写真・文、岡本信明:監修/山と溪谷社)を読んでほしい。伝統的な品種から最近登場したものまで、60種に及ぶ金魚図鑑コーナーを読むだけでも愛らしさに頬が緩むだろうし、その歴史や生態、飼育の基本を知れば、きっと自身でも飼いたくなることだろう。

 読者諸氏は、金魚の始まりがフナの突然変異だという話をご存じだろうか。本書によると、それは1700年以上前、晋の時代の中国での出来事だという。「ヂイ」と呼ばれた現地のフナから、突然変異で赤い個体が生まれ、それを繁殖させたというのだ。その後、さらにその中から尾の長いものや、身体の丸いもの、背びれのないものなどが生まれ、それらの選別と交配を何代にもわたり繰り返した結果、今のように多種多様な品種が流通するようになったという。

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 勿論、それらの金魚は自然界では生きられない。フナに近い姿をした「和金」などが、まれに池や沼で生き残るくらいだ。「琉金」に代表される丸い体の品種は、その動きの遅さから他の魚や動物たちからすれば、簡単に食べられるエサでしかない。また、これは水槽で飼っている金魚同士にもいえることで、速く泳げる個体に愚鈍な個体が狙われるため、絶対に混泳させないように。

 金魚の魅力といえば、丸い体でポヨポヨと泳ぐ姿に愛くるしさを感じる人は少なくないだろう。小生も「出目金」や「らんちゅう」といったポッテリ体形の金魚が大好きである。その中でも特に、本書で初めて知った新品種の「いわきフラっこ」に注目したい。

 2014年に発表されたこの品種は、その名が示すように福島県いわき市で生まれた。市内の「小野金魚園」がいわき市の地金魚を作るべく、会津の地金魚で「琉金」に似た「会津じょっこ」と、背中が盛り上がり腹もふくれた「玉サバ」を交配させ作り出したものだ。特徴は顔が小さく、ポッコリとした腹、背中も高くせり出している。さらにデルタテールと呼ばれる、くびれのない大きな三角形の尾びれも魅力である。丈夫で飼育しやすい品種とのことだが、まだ流通量が少ない様子。もっと広まることを願いたい。

 さて、個性的な金魚を飼育するなら、それに負けない飼育環境が欲しくなる。大きな水槽に水草や流木などを並べて、水族館のような雰囲気を出すことに憧れる人も多いだろうが、本書では実に意外な飼育方法を提示している。それは、水槽を使わずドンブリを使っての飼育だ。

 これは、本書の監修者でもあり金魚博士の異名を持つ岡本信明氏イチオシの飼育方法で、器が小さい分、「金魚を身近に感じられ、金魚も人を好きになってくれる」という。ただし、ドンブリは飼育する個体の体高より、2倍の深さを持つものを選ぶこと。また毎日水を換え、エサも少なめに。「一粒ずつ、目が合った瞬間に入れてやると早く慣れます」とのことだ。糞などの汚れは、ストローやスポイトで吸い取ると良い。

 こうして育てられた金魚は、直接手からエサを与えられるほどに懐いてくれる。確かに、仔猫のように抱き上げるというわけにはいかないが、飼い主の顔を見つけ追いかける姿は、他のペットに比べても負けないくらい、実に愛くるしいものだ。また狭い部屋でも飼えるというのも魅力。もし、自室に味気なさを感じているなら、金魚がきっと良いパートナーになってくれるだろう。

文=犬山しんのすけ