現役のがん専門医が語る、思いやりのある子どもに変わる「がん教育」の必要性とは?

出産・子育て

2017/8/25

『「がん」になるってどんなこと?』(林 和彦/セブン&アイ出版)

 フリーキャスターの小林麻央さんが乳がんの闘病の記録をブログに残し、自宅で家族に見守られながら旅立ってしまったニュースは、記憶に新しい。在宅医療を受けることを決め病院から自宅に戻ったママの車椅子を花で飾りつけ、むくんだママの足をさすってあげた4歳の長男。そばで聞いていたママの病状と注意点をそのまま暗唱した5歳の長女。

 病気を治そうと本人も家族もみんなでがんばっていたのに、ある日突然目の前からいなくなってしまったママのこと、大切なママを奪った病気のことを、小さな子どもたちがどんなふうに小さな心にしまっているのかを思うと心が痛む、と多くの人がコメントをよせた。

 日本人の2人に1人が生涯のうちに「がん」になるという今の時代、若い父親や母親が「がん」になってしまうことだってあるだろう。そうなってしまったら、幼稚園児でも小学生でも、思春期の中学生でも反抗期の高校生でも、「がん」と向きあわなくてはならない。

 そんな今だからこそ手にとってほしいのが、『「がん」になるってどんなこと?』(林 和彦/セブン&アイ出版)である。著者は、現役のがん専門医であり、さらに「がん教育」のために教員免許までとり、小・中・高で授業も行っている。本書は、その授業のために自ら作った教材をもとに「がん教育」の内容をまとめたものである。

「がん」のことを正しく理解している人はとても少ない

 著者が「がん教育」の大切さを痛感したのが、抗がん剤を使った治療中に髪が抜けてしまった患者さんにそのお孫さんが「おばあちゃん、気持ち悪い」と言ってしまったのを目撃したことだったという。子どもは、教えられなければ、知らなければ、状況を理解し相手を思いやることはできない。大人だって、「がん」のことを正しく理解している人はとても少ないのだ。

 本書では、3つの実話が紹介されている。子どもの気持ちと「がん」になった親の気持ちが日記で交互に描写されていて、読んでいくうちに両方の気持ちを理解しながら、その時の状況に合わせた解説でがん医療の知識や情報も得られて、とてもわかりやすい。

 たとえば、「お母さんが突然乳がんになった」の章では、お母さんの様子がいつもと違うと感じた小6の女の子の日記の次に、今日乳がんの詳しい検査を大きな病院で受けなければならない母親の気持ちを書いた日記が続く。そこに「がんがわかるまでの検査と診断」の解説があるので、その時の状況がよくわかる。その後、乳がんだとわかった日、手術を受けた日、まだ治療が続く日々、というように母娘それぞれの心の動きが日記にあらわされ、並行して「どんな治療をするの?」「治療はつらいの?」「これからどうなるの?」といった情報が紹介されていく。他の2つの実話も「大腸がんの父と子」「肺がんの祖母と孫娘」と違う状況への理解が深まる内容だ。

「授業の中で『みんなの笑顔や声かけが、がん治療の大きな力になる』ということを話すと、子どもたちの目の輝きが俄然ちがってきます」と著者はいう。さらに、紹介されている子どもたちの授業後の感想からも「がん教育」の必要性がひしひしと伝わってくる。

「『がん』について知っておきたい10のこと」「予防と検診の話」など、子どもたちだけではなく、がん教育を行う学校の教員や医療関係者、さらには保護者をはじめとする大人にも役立つように構成された本書。

「人生に、正解はありません。がんになってからの治療法の選択や生き方についても同じです。未来がどんな状況になろうとも、子どもたちが優しさを忘れずに、それぞれの人生をたくましく生き抜くことができるように、願ってやみません」という現役医師の深く熱い想いがつまった、これからの時代に必要な、おすすめの1冊である。

文=秋月香音