主人公は「干ししいたけ」の老夫婦!? シュールな展開に思わず吹き出す、きのこ絵本シリーズ『ほしじいたけ ほしばあたけ』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『ほしじいたけ ほしばあたけ カエンタケにごようじん』(石川基子/講談社)

 絵本作家の自由な発想には、しばしば驚かされる。『ほしじいたけ ほしばあたけ カエンタケにごようじん』(石川基子/講談社)も、大胆なイメージの飛躍にびっくりさせられる一冊だ。

 このタイトルから推測されるとおり、主人公は「干ししいたけ」の老夫婦。きのこが主人公の絵本は他にもあるかもしれないが、よりにもよって乾物とは! 珍しいところに目をつけたものだと感心する。

 きのこむらの外れ、ほだぎのさとに住んでいる「ほしじいたけ」と「ほしばあたけ」はとっても仲良しの老夫婦。好きなことはひなたぼっこ、嫌いなことは水に濡れること。

advertisement

 ある日、胞子を撒いているうちに、ほしばあたけとはぐれてしまったほしじいたけ。「どくどくどくどく どっくどく~」、そんな歌声のする方へ歩いていってみると、カエンタケという真っ赤なキノコたちたちが輪になって踊っていた。

 カエンタケに見つかったほしじいたけは「おまえも おどってみい!」と命じられ、仕方なく踊り始める。するとカエンタケは拍手喝采。気に入られたほしじいたけは、閉じこめられてしまうのだった。こうなったらあの手を使うしかない! 心を決めたほしじいたけが取った意外な行動とは…?

 作者の石川基子は『ほしじいたけ ほしばあたけ』で第36回講談社絵本新人賞を受賞しデビューを果たした新鋭。このデビュー作はシリーズ化され、今回の『カエンタケにごようじん』で3作目となる。

 困難に直面したほしじいたけとほしばあたけが、ここぞというタイミングで“ある行動”を取り、見事にトラブルを解決してみせるというのが毎回のパターン。その展開は思わず吹き出してしまうほどショッキングで、ある意味下らないのだが、それこそが作者の狙いでもある。新人賞受賞からデビュー作刊行までを綴ったネット上の連載記事によれば、創作にあたって「ちゃんとくだらなさがハンパなくえがけているか」を重視しているそう。

 そして緻密に描きこまれた絵が、展開のシュールさをさらに引き立てる。まさか! という予想の斜め上をいく展開にはきっと子供たちも大喜びのはずだ。

 きのこむらにはタマゴタケ、オオワライタケ、ヌメリイグチなど多彩なメンバーが暮らしており、どんなきのこが登場するかも本シリーズの楽しみ。きのこ図鑑としても役に立ちそうだ。今回のカエンタケも実在のキノコで、触ることすら危険な猛毒の持ち主であるという。

 愛らしい(ちょっとキモかわいい?)干ししいたけの冒険を描いた、唯一無二のユニークな絵本。一度読んだら癖になるテイストで、さらなるブレイクを果たすか。しばらく目が離せないシリーズだ。

文=朝宮運河