墜落した旅客機に毒殺事件の指名手配犯が!? 堂場瞬一警察小説シリーズ最新刊『身代わりの空』

文芸・カルチャー

2017/8/26

『身代わりの空』(堂場瞬一/講談社)

「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」「警視庁追跡捜査係」「アナザーフェイス」など、数多くの警察小説シリーズを手がけてきた堂場瞬一。『身代わりの空』は2014年から始まった「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ第4作となる最新刊で「堂場警察小説史上、最も深遠なる闇へ!」と銘打たれた上下巻、全600ページを超える長編作品だ。

 物語の発端となるのは、富山空港で発生した旅客機墜落事故。死者20名、負傷者多数という惨事に本シリーズの主人公・村野秋生が所属する警視庁総務部犯罪被害者支援課のメンバーたちも出動命令を受けて総動員される。犯罪被害者支援課の仕事は、その部署名が示す通り、犯罪や事故の被害者のケアやサポート。この事故は支援課始まって以来の大仕事となり、皆が被害者遺族の対応に奔走している最中、墜落機に偽名を使って搭乗していた身元不明の男性死亡者がいることがわかる。村野がその男の身元を探ると、意外な事実が判明。身元不明だった男の本名は本井忠介、それは半年前に発生した毒殺事件の指名手配犯だった――。

 本井の遺族は警察に追われて行方不明になっていた彼の不可解な行動と突然の死に深く傷つき、群がってくるマスコミに翻弄される。村野はその家族を死んだ指名手配犯の家族としてではなく、あくまで飛行機事故で死亡した被害者家族としてフォローしていく。そして、「主人は、どうして富山なんかにいたんでしょう」そんな本井の妻の疑問に応えるため、村野は特捜本部と軋轢が生じるのを覚悟のうえで独自の捜査に乗り出す。やがて、その謎は15年前に起こった毒殺事件と結びつき、新たな事件が発生。隠されてきた大きな闇が浮かび上がっていく。

 村野の捜査には、最先端の技術を駆使した科学捜査も巧妙なトリックの謎を一気に解き明かす大胆な推理も登場しない。かつて自身が体験した事故の後遺症が残る膝の痛みを気にしながら東京と富山を往復し、事件の関係者や事情を知っていそうな人物の行方を探り、実際に会ってひたすらに話を聞いていくだけである。そんな地道な捜査から村野は少しずつ手がかりを掴んでいき、やがて旅客機墜落事故という大惨事と未解決だった毒殺事件を結びつける大きな事件の全容が見えてくる。

 複雑に張り巡らされた伏線の数々と交錯する思惑が次第に明かされていくミステリーとしての面白さはもちろんだが、本作のさらなる魅力は主人公である村野はもちろん、警察関係者から被害者遺族といった脇役まで含めた人物造形と語りの巧みさだろう。当然、登場するのは共感できる人物ばかりではないのだが、村野との対話を通して、そのひとりひとりの心情や生き方が垣間見えてくる、そのリアリティに思わず引き込まれるのだ。また、正式な捜査権を持たない犯罪被害者支援課の村野が、警察組織のセクショナリズムを乗り越えるための折衝の数々も警察小説ならではの読みどころだ。

 さらに本作では、堂場瞬一の警察小説シリーズ「失踪課」の高城、「追跡捜査係」の西川と沖田、「刑事の挑戦」の一ノ瀬といった面々が村野の捜査に協力。堂場瞬一の警察小説ファンにはたまらない展開を見せてくれる。もちろん、こうしたゲスト的に登場するキャラクターが主人公のシリーズを先に読んでいないと本作を楽しめないということはないし、「犯罪被害者支援課」シリーズとしてもそれぞれ物語は独立しているので、本作から読み始めても何の問題もない。むしろ、堂場警察小説の世界観の広さに触れ、他シリーズに興味が出てくることもあるだろう。意欲的に拡大していく堂場警察小説の入門編として楽しめるはずだ。

文=橋富政彦