廃墟のドS美少女とその“犬”の男子高校生の青春ミステリー!相沢沙呼による「マツリカ」シリーズ最新作『マツリカ・マトリョシカ』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『マツリカ・マトリョシカ』(相沢沙呼/KADOKAWA)

 人生には、どうあがいても永遠に手にできないものがある。取り返しがつくものなど何もない。いつだって答えをもらえるとは限らないし、欲しい言葉がもらえるとも限らない。理不尽なこの世の中で、人間は抗い続けなければならないのだろう。どうにか折り合いをつけなければならないのだが、前を向くことが難しいこともある。

 何も告げないまま自殺した姉の“語られなかった言葉”に思い悩む、冴えない男子高校生・柴山祐希。そんな彼を「柴犬」と呼び、学校の怪談の調査を命じる、廃墟に住まいの謎の美少女・マツリカ…。相沢沙呼氏著の日常系ミステリー「マツリカ」シリーズの最新刊『マツリカ・マトリョシカ』が8月25日に電子書籍化された。

 今回柴山が挑むのは、「開かずの扉の胡蝶さん」の怪談。2年前に密室状態の第一美術室で女の子が襲われるという事件が起きたのだという。事件は解決されないまま時が過ぎ、柴山の目の前で「開かずの扉」が再び開くことになったが、そこでは、制服を着せられたトルソーが、散らばる蝶の標本と共に転がっていた。誰も出入りできない密室という状況で再び起きた事件。おまけに、柴山が犯人と疑われてしまう事態になってしまい…。彼はクラスメイトとともに、過去の密室と現在の密室の謎に挑む!

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 柴山に「開かずの扉の胡蝶さん」の怪談を教えたのは、後輩の春日麻衣子。彼女は2年前の事件で被害者となった先輩を姉のように慕っていたのだという。どうして先輩は真相を話してくれなかったのか。仲良くしていたのに、頼ってくれなかったのか。春日は、先輩が語らなかった真相を追い求めている。その姿は、何も告げぬまま自殺した姉を思う柴山自身と重なる。自分は役立たずなのか。何もできないのか。柴山は自己嫌悪に苛まれ続けながらも、怪談の謎に迫る。

「どうせおまえなどには、なにもできないわ」「お前の困った貌を見るとゾクゾクするのだもの」。時に暴言を、時に甘い言葉を吐くマツリカ。艶かしいマツリカに翻弄され続ける柴山は、マツリカがつけたあだ名の通り“犬”そのもの。マツリカと柴山のやりとりをみていると、「こんな妖艶な美少女相手なら“犬”扱いされるのも悪くはないかも…」などと良からぬ思いが心に湧き上がってくるのを感じる。おまけに、マツリカは柴山をこき使いながらも、彼に思いやりを持ち続けているのだ。言外に滲み出てくる柴山への愛情。「学校近くの廃墟に魔女が住んでいて、彼女はどんな不思議なできごとも、どんな機会な謎も、瞬く間に解き明かしてしまう…」。そんな怪談じみた噂まで囁かれるマツリカの存在だが、特に今回は柴山の危機にいてもたってもいられなくなって…。マツリカのツンデレぶり、そして、2人の微妙な距離感から目が離せない。

 日々湧き上がる自己嫌悪。性の背徳感。友情と恋…。青春の甘酸っぱさもほろ苦さもこの物語にすべて詰まっている。やみつき必至の学園ミステリーを、ぜひとも手にとってほしい。

文=アサトーミナミ