今この瞬間の「絶対」をつないでいけば、いつかそれは永遠になる――小嶋陽太郎著『ぼくらはその日まで』

文芸・カルチャー

2017/8/28

『ぼくらはその日まで』(小嶋陽太郎/ポプラ社)

 9月6日発売の『ダ・ヴィンチ』は「恋する私たちは、ちょっとおかしい」という特集が組まれるが、恋をすれば「僕たち」もちょっとおかしくなる。好きな人ができたとたん、生活はその人を中心にまわりだし、誰も彼もがその人のことを好きなような気がしてしまい、自分がうっかり目をそらした隙に奪われてしまうんじゃないかと不安になる。大人でさえもてあますその気持ちを、初めて手に入れた中学生が冷静でいられるはずがない。『ぼくらはその日まで』(小嶋陽太郎/ポプラ社)は、そんな甘酸っぱい想いが交錯する青春小説だ。

 思えば中高生時代、クラス替えや席替えは日常を揺るがす一大事変だった。主人公の僕ことサクは、中学2年生のクラス替えで、自分だけが仲良しの2人と離れてしまったことを知る。わんぱく少年・ハセと、変わり者の天然女子・チカ。サクはチカのことが好き。ハセとチカは恋愛にまるで興味がなさそうだが、周囲に耳を澄ましてみればハセは女子からずいぶん人気があるようだ。あまり意識したことはないけど、もしかしてハセって男気溢れるめちゃくちゃかっこいい奴なんじゃないか……? なんて気づいてしまったからさあ大変。自分抜きで2人が一緒にいる、と考えただけでそわそわ不安になってしまう。

 いったいどこに置き去りにしてきちゃっただろうな、こんな気持ち。というくらい、本作は甘酸っぱさで溢れている。サクだけじゃない。いちばん縁遠そうなハセさえも恋に落ちて、みんなそろって右往左往。心の中では相手のことが気になってたまらなくても、そう簡単に、友達にさえ「好き」という言葉を軽々しく口には出せない。なんでかって? 大事だからだ。誰かに恋をするということは、とても尊くて、簡単に誰かに触れさせられるものではないからだ。だけど一方で、その気持ちの不確かさに戸惑いもする。思いもかけない女子から想いを告げられたサクは「彼女のことも好きか嫌いで言ったら好きだけど、え、じゃあ好きっていったい何? チカへの気持ちと彼女への気持ちは何が違うの?」と混乱する。アンビバレンツな気持ちが両立するのが恋であり思春期なのだ。はー、もう一度言う。甘酸っぱい!!!!!!!!

 夏休み、三人一緒にハセの田舎に滞在中、出会った女子高生の桐子に、サクはこんなことを言われる。「『絶対』なんて言葉は軽々しく使わないほうがいいんだぜ」。サクたちよりほんの少しだけ年上の彼女は、人の気持ちに永遠なんてものはないと知っている。だけど彼女は、サクたちと出会ったことで、少なくとも今この瞬間だけは絶対と言い切れる想いが自分の中にもあると知る。桐子の抱えていたものが、サクたちとのかかわりによって氷解したときには思わずぐっと胸がつまる。

 ぼくらはその日まで。その日とは、いつか大人になって現実を知る、永遠なんてないと思い知る日のことかもしれない。でも、今この瞬間の「絶対」をつないでいけば、いつかそれは永遠に似たものに変わるかもしれない。そう信じていきたいと思わせる切実なピュアさが、サクたちの過ごす夏にはある。ぜひこの夏を彼らの冒険とともに読者にも過ごしていただきたい。

文=立花もも