「ズッコケ三人組」の著者が25年前に発表した、コンゲーム(詐欺)小説の快作がついに復活! 那須正幹著『さぎ師たちの空』

文芸・カルチャー

2017/8/30

『さぎ師たちの空』(那須正幹/ポプラ社)

 那須正幹の名作『さぎ師たちの空』(那須正幹/ポプラ社)が文庫化された。那須正幹といえば2500万部という驚異的セールスを誇る児童書のベストセラー「ズッコケ三人組」シリーズで知られる作家。しかしそれ以外にもミステリー、SFなど幅広いジャンルの作品を数多く手がけている。1992年に単行本が刊行された本書は、ファンの間で“名作”と語り継がれながらも、長らく入手が難しかった長編だ。このほど著者と縁の深いレーベルのポプラ文庫から四半世紀ぶりに復活したことは、那須ファンの一人として喜ばしい。

 本書は家出少年・太一の目を通して、大阪の下町でたくましく生きるさぎ師たちの世界を描いたピカレスクロマン(悪漢小説)である。

 不良グループとトラブルを起こし、広島から家出してきた中学2年生の太一は、大阪駅近くのラーメン屋で無銭飲食をしようとして失敗。店員に殴る蹴るの暴力を振るわれる。そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、さぎ師を生業にするアンポという謎の中年男だった。

 アンポは自分の部屋に太一を連れて帰ると、さっそくラーメン屋から治療費を巻き上げる計画を練り始める。アンポが下宿しているのは通天閣の近くにある質屋の二階。どうやらこの質屋のおっちゃん、おばちゃんもアンポの一味であるらしい。翌朝、良家の顧問弁護士を装ったアンポとともにラーメン屋を再訪した太一は、自分の怪我がたちまち50万円という大金に化けてゆく光景を目の当たりにして、あっけにとられる。

 本書の魅力はなんといっても、スリリングな頭脳ゲームの面白さに富んだストーリーだろう。初仕事の後、そのままアンポたちと暮らすようになった太一は、詐欺の仕事も手伝いはじめる。

 アンポがターゲットにするのは、基本的に権力と富をそなえた大金持ちばかり。政界進出をもくろむ大地主からお得意の“黄門さま作戦”で大金を巻き上げたり、観光地のホテルで幽霊事件をでっちあげたり、骨董好きのやくざの親分にニセの古美術品を売りつけたりと、その計画はいずれも手が込んでいて、スケールが大きい。周到な準備を経てついに作戦決行! という流れはどのエピソードでも手に汗握るような興奮がある。

 ちなみにアンポというニックネームは、安保闘争時のスローガン「アンポ反対」に由来している。休日には労働者たちをあつめて共産主義の勉強会を開いているアンポは、過去には安保闘争と関わりをもっていたらしい。彼にとっての詐欺は、「もたざる者が、もてる者から金銭をとりもどす」という行為なのだ。こうした一筋縄ではいかないアンポのキャラクター造形が、物語に一層の奥行きを与えている。

 詐欺を扱ったエンターテインメント作品は一般に“コンゲームもの”と呼ばれる。映画ならポール・ニューマン主演の『スティング』、小説なら小林信彦の『紳士同盟』がその代表例だろう。

 本書『さぎ師たちの空』は、児童文学のフィールドで書かれた国産コンゲーム小説の埋もれた傑作だ。詐欺という犯罪を扱っていながら、その読後感はまるで澄み切った空のように爽快。「ズッコケ三人組」だけには留まらない那須正幹のすごさを再認識できる一作なので、かつて「ズッコケ」に熱中した人もそうでない人も、ぜひチェックしてみてほしい。

文=朝宮運河