あらゆる欲望に打ち勝つ悟りの境地をあなたも体験できる「歩行禅」とは?

健康

更新日:2017/9/12

『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』(KADOKAWA)

 心の潤いを失いがちな現代社会に生きていると、ネガティブな自分が常態化してしまいます。「心身の健康を保ち、人生を好転させるためには、心の針をコントロールすることが必要であり、そのためにはウォーキングと瞑想を組み合わせた歩行禅が、最良の方策です」――荒行をやりきった塩沼亮潤氏(@ryojun_shionuma)は、そう教えてくれました。

 塩沼亮潤氏は1999年9月2日に「大峯千日回峰行」(奈良県吉野山の金峯山寺蔵王堂から山上ヶ岳の大峯山寺山上蔵王堂までの往復48㎞、高低差1300mの山道を、雪で山が閉ざされる期間を除いて足かけ9年にわたり、1000日間歩き続ける行)を達成。達成者(大阿闍梨)は大峯山1300年の歴史のなかでわずか2人だけ。その塩沼氏が提唱する歩行禅は、千日回峰行のエッセンスを“いいとこ取り”した誰でも簡単に実践できるメソッドです。

■あらゆる欲望に打ち勝つ悟りの境地をあなたも体験できる!

 心の針はコントロールできます。コントロールできる状態は、仏教で言う「悟り」の一つの段階だと考えてください。では、具体的には、どうすれば悟りの境地に近づくことができるのでしょうか。

advertisement

 その答えは、「ルーティン」です。

 ルーティンとは、日々、習慣的に繰り返す決まりきった仕事や一連の所作のことを指します。世界的に有名なイチロー選手が、バッターボックスに立つ前の動作や日常習慣などにおいて「同じパターンの繰り返し」を大切にしながら自己管理してきたエピソードはよく知られていますが、実は、仏教の教えにおいてもルーティンは非常に重要な意味をもっているのです。

 約2500年前に、お釈迦様が「同じことを同じように繰り返していると、悟る可能性がある」とおっしゃいました。また、伝教大師最澄(でんぎょうだいしさいちょう)は「最下鈍の者も、十二年を経れば必ず一験を得ん」という言葉を残しています。どんなに愚かな者でも、12年間、一つのことに取り組み続けていると、必ず何か秀でるものをつかむことができるという意味です。

 それでは、心の針をコントロールするためには、何をルーティンにすればいいのでしょうか。私自身は、24歳のときから9年間にわたる「大峯千日回峰行」をとおして、「自分が置かれている環境、与えられているご縁、また、悩みや苦しみを含むあらゆる出来事には意味がある。すべてを受け止め、すべてに感謝して生きることが、幸せへのいちばんの近道である」という悟りを得ることができました。しかし、ほとんどの人にとって、千日回峰行のような命がけと言える修行をルーティンとすることは、現実的ではないでしょう。

 そこで、私が自信をもっておすすめしたいのは「歩行禅」という“プチ修行”です。歩行禅は文字どおり、「歩く」ことの効果を活用した心のエクササイズ。私が身をもって実感した千日回峰行のエッセンスだけを“いいとこ取り”した、いわば修行のエントリー版であり、心の針をコントロールし、悟りに一歩近づくための、もっとも簡単なアプローチ方法です。

■「ごめんなさい」「ありがとう」と唱えながら歩るだけ

 歩きながら瞑想し、そのあとに座禅を組む、全部で3ステップ(「懺悔の行」「感謝の行」「座禅の行」)からなる歩行禅のやり方については、私の新しい著作『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』に詳しいのですが、ここでは歩行禅の効果について述べます。

 歩行禅が「心のエクササイズ」として多くの人に役立ててもらえると確信したのは、実は、比較的最近のことです。2016年に沖縄県で開催されたG1サミットに参加させていただいたことが直接のきっかけとなりました。G1サミットは「日本版ダボス会議」とも呼ばれ、今後の日本や世界を担っていく各界のリーダーたちが活発に意見交換と交流をする大規模な催しです。そこで「参加者向けのアクティビティとして、なにかやっていただけませんか?」との依頼を受けたのです。

 先進的な会議のあとに、大自然のなかで頭と心と身体がすっきりリフレッシュできて、なおかつ、せっかく体験していただくのだから、参加者のみなさんに喜んでいただけるものにしたいと考えた結果、千日回峰行と仏教の教えを下敷きにした「歩行禅」をおこなうことにしました。

■喜びの声が続々! 簡単なのに効果抜群!

 歩行禅を「ネイチャー・ウォーク」と銘打ったその内容は、スタート地点から1.5キロメートルほど先の岬まで、ビーチをウォーキングで往復し、戻ってきたら座禅を組むというもの。往路では、人生のなかで懺悔しなければならない過去や日常で人に迷惑をかけたことなど、自分の罪や過ちをできる限りたくさん思い出して、心のなかで「ごめんなさい」と唱えながら歩き、復路では、人生のなかで感謝すべきこと、ありがたいと思えることを、できる限りたくさん思い浮かべて、心のなかで「ありがとう」と唱えながら歩きます。また、座禅をする際は、いま自分が置かれている状況や、与えられている環境と向き合うのです。

 参加者のみなさんからは、「歩きながらだと、素直に自分を反省できることがわかりました」「自分を客観的に見つめる時間になりました。こんな時間をもったことは、いままで一度もありませんでした」「心が晴れる、すごくいいセッションでした」など、大満足の声をいただきました。

 ネイチャー・ウォーク=歩行禅の効果は一過性のものではありませんでした。

 後日、参加したある女性と再びお会いする機会があったのですが、彼女は私に会うなり、「ネイチャー・ウォークのあと、不登校だった子どもが学校に行くようになったんです。本当にありがとうございます」と話しかけてきてくれました。

 懺悔と感謝を徹底的に洗い出し、時間をかけて客観的に自分と向き合うことで心が変わり、自分から発する雰囲気が変わり、子どもたちや家族への接し方が変化して、コミュニケーションの質がいい方向に変わった。その結果、不登校の問題が解決したのでしょう。

 勤務先で上司との関係がうまくいっていなかったという会社員の男性は、ネイチャー・ウォークのあと、「自分にも悪いところがあるのかもしれない。そういえば、笑顔で話しかけたこともなかった」と思い至り、悩みの種だった上司にも必ず笑顔で挨拶をして、自ら積極的に関わるようにしたそうです。すると、かつて自分を苦しめていた、上司のとげとげしい態度が日を追うごとになくなっていったと言います。

■「瞑想+ウォーキング」でうつが軽減

 歩行禅で心が整えば、身体の調子も整ってきます。これは決して精神論ではなく、「心身相関」といって、医学的にも明らかになっていることです。

 2016年の秋、アメリカの『バックパッカー』という雑誌に、千日回峰行と私の特集記事をまとめていただきました。その記事内では、「米ニュージャージー州にあるラトガース大学のブランドン・オーダーマン博士らの研究発表により、軽いウォーキングなどの有酸素運動と瞑想を組み合わせると、うつ病の症状が軽減し、前向きな気持ちになることがわかった」というトピックスが紹介されています。

 心の針のコントロールが必要と感じたら、すぐにでも歩行禅を始めて、ルーティンとしましょう。歩行禅は誰にでもできる、もっとも簡単な修行なのです。

著者紹介
●塩沼 亮潤(しおぬま りょうじゅん)
1968年仙台市生まれ。東北高校卒業後、吉野山金峯山寺で出家得度。1991年大峯百日回峰行満行。19999年吉野・金峯山寺1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行満行。2000年四無行満行。2006年八千枚大護摩供満行。現在、仙台市秋保・慈眼寺住職。大峯千日回峰行大行満大阿闍梨。