名門校が激突! 校内にヤギがいる「武蔵」vs.髪色が奇抜な「麻布」どちらが変なの?

社会

公開日:2017/10/5

『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』(おおたとしまさ/集英社)

 名門校と聞いて、どんな学校を思い浮かべますか? 「利発そうな生徒たちが机に向かって切磋琢磨してる感じ?」なんて先入観にとらわれがちな筆者の想像力をひっくり返したのが、先日発売された『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』(おおたとしまさ/集英社)でした。

 同書は、開成、麻布と並んで「御三家」とされる名門校・私立武蔵高等学校中学校(以下、武蔵)に長期間直接取材を敢行し、その実態に迫った学校ルポルタージュ。緑豊かな校内でヤギを飼い、ひたすら岩石を削る授業など、想像の右斜め上をいく武蔵の素顔が綴られています。

 9月16日(土)には同書の発売を記念して「武蔵vs麻布 本当に『変』なのはどっち?」というトークショーが開催されました。

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左からおおたとしまさ氏、神田憲行氏

 この本のために武蔵を取材した著者のおおたとしまさ氏と、同じく御三家として名を連ねる麻布中学校・麻布高等学校(以下、麻布)のルポ『「謎」の進学校麻布の教え』(集英社)を執筆したノンフィクションライターの神田憲行氏によるトークイベント。武蔵と麻布、どちらが「変」なのかというテーマで、行事や授業など、さまざまな角度から両校の「変」が暴かれる貴重な機会となりました。

 まず、用意されたスライドに、麻布の日常風景が映し出されます。

おおた氏「麻布の文化祭は、全国的にも有名な学校行事。また『生徒が髪を緑に染めてる学校だよね!?』って話題になる学校でもあるのですが、一般公開される文化祭に見学に来たお子さんの中には、麻布生の髪色を見て『ちょっと違うかも……』と感じて武蔵を受験したっていう子にもいましたね」

 なんでも、麻布の運動会や文化祭などの行事では、生徒たちが自分のクラスカラーに髪を染めるという文化があるとか。そのため、赤、青、緑と、頭髪が彩られるそうです。いろんな意味で濃い!

 そして、長い間麻布を取材していた神田氏は教室のようすを「絶望的に汚い」と、著書に表現。

神田氏「このスライドにはないんですけど、麻布は教室の中がものすごく汚い。ロッカーの前にはゴミの山があるし、床にもいろいろなものが落ちてるような状況だったのが印象的でした」

 これには麻布出身のおおた氏も苦笑い。カラフルな髪色に、汚い教室などなど、この時点で筆者が思い描いていた名門校のイメージが覆されました。

 つづいて、練馬区にある武蔵の学校風景を紹介。都会のど真ん中にある麻布と違い、木々に囲まれたのどかな風景が映し出されました。

おおた氏「校門を入っていくと左手にヤギがいて、グラウンドがすごく広い。校内には川まで流れている、牧歌的な雰囲気ですね」

神田氏「麻布の本を出したこともあってインタビューなどで『お子さんがいたら麻布に行かせますか?』と、訊かれることがあるんですけど、行かせないですね(笑)。もしも子どもがいたら、武蔵に行かせたいです。私も武蔵を取材したことがありますが、すごくのんびりしてていいですよね」

 学校の環境を見ると正反対に思える武蔵と麻布。両校には、一体どんな“変”があるのでしょうか。

●武蔵には修学旅行がない

 学生時代の一大イベント・修学旅行がないという武蔵。何ゆえ修学旅行がないのでしょうか?

おおた氏「自分で考えない付和雷同的な雰囲気になってしまうことは、武蔵の文化にふさわしくないからやめましょう、という判断で40年前になくなったそうです」

神田氏「そのほかの行事も、すべて現地集合現地解散なんですよね」

おおた氏「はい。みんなでバスに乗ってお菓子交換もできない(笑)。校外学習も直接現地に行って、山を登ったり大涌谷を見たりするときも現地まで自力で行くことになっています」

 学生時代、修学旅行は当然あるものとして参加していた筆者にとっては、かなり衝撃的……。しかし、現在同校では「修学旅行復活計画」が代表委員長を中心に進行中だとか。一般的な修学旅行ではなく“武蔵らしい”修学旅行を実現するにはどうしたらいいか、という議論が今も続いているそうです。

●麻布生が髪を染める理由

 冒頭でも紹介したように、クラスカラーに髪の色を染めている生徒が多い麻布。同校の廊下には「なぜ麻布生は髪を染めるのか」というテーマで生徒が書いた新聞が張り出されているそう。

おおた氏「新聞には世の中の高校は、髪の毛を染めることを禁止にしている学校が多く、その校則は本当に正しいのか? という非常に余計なことが書かれているんです(笑)。世の中的にはNGなことであっても、果たしてそのルールは正しいのか、ということを考えるのが麻布生の本分だ、という内容ですね」

神田氏「私は田舎のヤンキー中学出身なので、髪を染めてる生徒ってほんとに危ないヤツだったんですよね(笑)。それもあって取材のときは、君たちは危険ではないでしょって思いながら麻布生を見てました」

おおた氏「仰る通り! 痛々しいんですよね。ただ、本人たちもカッコイイとは思ってなくて、痛々しさを自覚しながらやってるところがあるんじゃないかな」

 修学旅行がない武蔵と、高校生が髪を染めてはいけない世の中に疑問を抱く麻布。常識に対して、疑問を抱くという点において共通する部分があるのかもしれません。ちなみに、麻布出身のおおた氏が武蔵の本を書いた理由のひとつは親近感だったとか。

おおた氏「自分が中高生だった頃から、武蔵にはシンパシーを感じていたんです。いとこのことを書いているような感覚で執筆できましたね」

 そのほか、入試の傾向や教育方針などの観点からも特徴を解説するなど、興味深い内容が盛りだくさんの1時間。“変”でつながる武蔵と麻布。どちらも変で、どちらも真剣……! 勝敗はつきませんでしたが、両校の魅力に迫ることができたイベントでした。

文=真島加代