伝説の雑誌『奇想天外』。本日10月27日に奇跡の復活。新井素子、有栖川有栖、恩田 陸、京極夏彦らも小説寄稿!

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2017/10/27

2017年は〈新本格〉誕生30周年に当たる。その〈新本格〉第一世代作家がまだ読者だった1970~80年代に、『奇想天外』という雑誌があった。SF・ミステリーなどのジャンルを超えた、まさに「奇想天外」な誌面。その伝説の雑誌を2017年10月27日に山口雅也が復活させる。

山口雅也さん

山口雅也
やまぐち・まさや●1954年、神奈川県生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中より諸分野のライターとして活動後、89年に『生ける屍の死』で作家として本格デビューを果たし、以降最先端で活躍し続ける。『日本殺人事件』で第48回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞。評論やアンソロジーの方面でも多数の実績がある。

 

『奇想天外』とは
1974年、ワセダミステリクラブ出身の曽根忠穂がミステリー畑の小鷹信光、SF畑の福島正実を編集委員に迎えて創刊した小説誌。幾度かの版元変更を経て1990年まで存続した。SFに限らず多くの才能を輩出した雑誌で、新井素子、山本弘、夢枕獏ほかの作家をデビューさせた。評論も荒俣宏など当時の先鋭的なメンバーが参加していた。

エンターテインメントの大実験に挑む

かつて1970年代は雑誌の時代だった。作家が責任編集で作る『面白半分』や投稿を中心とした『ビックリハウス』、植草甚一責任編集の『宝島』など、特徴ある雑誌が綺羅星の如く存在していた。『奇想天外』は、そうした時代に創刊されたのである。編集長はワセダミステリクラブ(WMC)出身の曽根忠穂だ。

「あのころWMCは神話時代(ミソロジー)だったんですよ。まだ存命の江戸川乱歩がクラブに顔を出して色紙を書いたりね。島崎博さんが大学院のとき、曽根さんは大学の1年だった。その島崎さんの『みすてりい』という同人に曽根さんも参加したりして、高田馬場に梁山泊みたいなものができてたんですよ。そういう背景があって『奇想天外』は創刊された。曽根さんが大学1年の時4年に在籍していたワセミスOBの小鷹信光さんがミステリ、ジュヴナイル作品で実績があった福島正実さんがSFのそれぞれ編集委員になって。創刊号の表紙を見ると〈ミステリ、ファンタジー、SF、ホラー、ノンフィクション〉っていう成分表示があったんです。とにかく自分の好みのものがすべて入っている。こんな楽しい雑誌はほかになかったわけですね。また、のちにSF作家になる鏡明さんが当時、「SF・オン・ザ・ロック」という連載(執筆名義は岡田英明)を持っていて、日本で評判になる前のロックバンドKISSを“キッス”でなくて“キス”として紹介している。サブカルチャーもこれ一冊買えばなんでもわかったんです」

『奇想天外』から遅れること約1年で島崎博編集長の『幻影城』が創刊される。こちらは泡坂妻夫や連城三紀彦、栗本薫といった作家たちを輩出し、〈新本格〉世代の作家が大きく影響を受けたことでも有名だ。しかし、『奇想天外』で曽根が果たした功績についてはそれほど知られていないと山口は感じていたという。

「『奇想天外』は断続的に休・復刊を繰り返していたから、エアポケットに入って読んでいない人たちも多い。今は本が売れないと言って出版界のみんなが困っている時期だけど、そういうときだからこそもう一度曽根忠穂の作った『奇想天外』の精神を知らしめなければいけないという動機が最初にありましたね」

『復刻版』『21世紀版』の2分冊で刊行。
みんなが腹を抱えて笑えたり、びっくりするようなものを。

当初は1冊での刊行を予定していたが、最終的には旧『奇想天外』傑作選となる『復刻版』と新稿のみの『21世紀版』の2分冊になった。

「最初の考えは復刻だったけど、1冊だと分量としては第2期の新井素子登場までぐらいしか追い切れない。また、曽根さんや小鷹さん、福島さんが敷いたレールの上で楽をさせてもらってきた我々が、21世紀の今なにを発信できるか、『奇想天外』に応えられるものをやれるのか、ということを形にしなければいけない。小説だけではなく、企画も、まだまだこんな、みんなが腹抱えて笑えたり、びっくりするようなものを出せるぞ、と示さないといけないと思ったんです。それが『21世紀版』だったんだけど、そっちだけでもう1000枚ぐらいになっちゃったんで分冊にせざるを得なくなった。おかげで『復刻版』のほうに長い小説を入れる余裕ができてよかったですけどね」

『21世紀版』に参加している作家は『奇想天外』出身の新井素子のほか、有栖川有栖、井上夢人、恩田陸、京極夏彦、法月綸太郎、宮内悠介山口雅也というメンバーだ。それぞれジャンルにこだわらず“奇想天外小説”と呼ぶしかない作品を提供している。翻訳作品も豪華である。

「ミステリやSFというのは、翻訳者の見識が必要なんです。だってミステリなんかは、このトリックが斬新なものなのか、それとも模倣なのか、読み重ねてる人じゃなきゃわからない。だから評論家としてもピンで書ける人にお願いしました。英国小説では宮脇孝雄さん、仏文で高野優さん、SFとホラーの専門家として尾之上浩司さん、バークリイは森英俊さんという布陣です。そういうふうに翻訳家を名指ししてお願いしました」

島田荘司も参加!「文壇ビートルズ王者決定戦」
菊地秀行も参加!「奇想天外史上最強ミステリ映画祭」

「文壇ビートルズ王者決定戦」(島田荘司参加!)や「奇想天外史上最強ミステリ映画祭」(菊地秀行参加!)といった企画も充実している。

「企画ものでお願いした執筆者はいわゆる“ファーストコール”です。西海岸でヒットレコードを作るときに、バンドが揃わない場合がある。そういうとき、最初に電話する相手、プロ中のプロのセッションマンです。ミステリ映画を語らせたらこの人しかいない、音楽を語らせたらこの人だろう、というメンバーに集まってもらいました」

さらにおもしろいのは、山口がFacebook上で交わしたやりとりが読み物として掲載されていることである。これはポスト紙、ポスト書籍の時代を睨んだ実験のひとつなのだ。

「自分は小説で育ってきたし、紙の本に愛着もあるけれど、もう時代の流れはどうしようもない。世間を見ればみんなスマホを見ているわけだし。でもそこで、紙の本はもう売れないや、と言って俯いているだけじゃダメであって、今の時代に何ができるかってことを考えなきゃいけない。たとえばSNSでもFacebookっていうのは同人誌ですよね。特定の友人が集まって、トピックなりなんなりの記事を書いていく。そこでプロの人たちは、十分にお金を取れるレベルのレビューを書くし、読んでいる人もそれなりの目線の高さでそれにコメントをつけてくる。これは本に収録したけど、あるときジェイムズ・ボンドの謎のレコードというのを評論家の松坂健さんが話題にしてきて、それに私が食いついたことがあるんです。その延々とやったやりとりが広がっていって、思わぬ発見まであった。それこそグーグルの検索でも絶対引っかからないようなレコードの情報をブロガーの人から送ってもらったんです。今の時代だから、ネットだからこそのやりとりで、それは活字にしてもいいレベルのおもしろさだと思うんですよ。SNSの中だけに埋もれさせておくのはもったいない。当時の『奇想天外』が今もしあったら、絶対ネットに目をつけているでしょうしね。もうひとつ『ミステリ宮中歌会始の儀』というのを巻末でやったんですが、北村薫さんをはじめ短歌の心得のある人は多い。一見古めかしく見えるけど、これこそネット時代の企画で、この企画をTwitterで発信したら何万というアクティビティがあったんです。字数の少ないTwitterと短歌は親和性が高いんですね。だから、この先の出版のフォーマットとか世界をどういうふうにしていったらいいのか、というヒントがあそこにはあるはずなんです」

学校の教科書よりも雑誌からむしろ大事な基礎教養を得た、と語る山口は、自らを「マガジニスト」と規定する。雑誌的な“なんでもあり”の精神に創作の起点があるからだ。その山口がジャンル越境の『奇想天外』を蘇らせたのは運命の必然だったのだろう。

「すべての創作物は『奇想天外』なんですよ。びっくりさせたいんですよ。ピカソもベートーヴェンも、ボブ・ディランも、とりあえず皆さんをびっくりさせたいと思っているんです。それを商業ベースで売るときに〈クラシック〉だとか〈ロック〉って言ってるだけなんです。〈新本格〉って呼んでみたりね(笑)」

取材・文:杉江松恋 写真:川口宗道

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