「いいね!の数は、やっかみの数」「がんばれはテキトーな言葉」 蛭子能収の世界一ゆるい自己啓発本!

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公開日:2017/11/9

『笑われる勇気』(蛭子能収/光文社)

 ネットで「蛭子能収」と検索すると、「サイコパス」「クズ」「イラつかせる」など、散々な言葉が次々と出てくる。出演されているテレビ番組を見ていると、確かに空気の読めない自己中な言動が目立つが、本当に「クズ」な人が芸能界を生き残ることができるのだろうか。

「世界一ゆるい自己啓発本」というキャッチコピーを引っ提げ、70歳を記念して出版された『笑われる勇気』(蛭子能収/光文社)には、「クズ」ではない「きれいごと、ゼロ」な蛭子さんの独特の考え方が並んでいた。

■きれいなものの裏にはなにかある

 競艇好きで有名な蛭子さんだが、休みの日は奥さんの趣味に付き合うようにしているそうだ。その趣味は神社仏閣巡り。きれいな神社やお寺を巡って「美しい」と感じるものの、「心を動かされることはない」と言い切る蛭子さん。「自分があるのは神社やお寺のおかげ」と言いながら、お賽銭を投げる奥さんの姿を見て、「そのお金で神社やお寺が建てられているのか」と思うと、どんなに素晴らしい古刹やお宮でも色あせて見えてしまうという。

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 外国の遺跡を見ると、もっと複雑な心境になるそうだ。万里の長城やピラミッドなどの超巨大建造物を造り上げるには、絶大な権力者が大勢の奴隷に命令して労働をさせたはずだ。巨大な石を積み上げる作業は危険極まりなく、果たして何人のケガ人や死者が出たか分からない。昨今はブラック企業が問題になっているが、同じように超絶ブラックで造り上げられた遺跡を見て、手放しで賛美していいものか分からない。蛭子さんらしからぬ風刺の効いた言葉にイメージが変わる読者もいるのではないだろうか。

■「がんばれ」はテキトーな言葉

 人はよく他人に「がんばれ」と声をかける。蛭子さんも競艇に行くと「おっ蛭子さん、競艇がんばってよ」とファンから声をかけられるそうだ。しかし蛭子さんはこの「がんばれ」をそんなに信用していない。

 人は他人の気持ちが分からないもの。だから他人の人生を本気で考えることができない。しかし仕事や人生の悩みを相談されたとき、なにか言わなくてはいけないので、ふさわしい言葉を見つけられず、つい人は他人に「がんばれ」と言ってしまう。つまり「がんばれ」に意味なんてない。テキトーに口走っている言葉なのだ。

 蛭子さんは競艇で大穴を狙うことが多い。もちろん大半は負けるのだが、それは「オレの責任」。仕事や人生など、どんなことも自分で考えて実行して、その結果には自分で責任を取る。そこに他人の言うことは、あまり関係がない。したがって人から「がんばれ」と言われても、重く受け取らず「はい、はい」といい加減に返事をしておけばいいそうだ。思い当たる節が多くて耳が痛い人もいるのではないか。他人に期待されて一生懸命になりすぎている人には、ぜひ届けたい言葉でもある。

■好き放題な「ゆるゆる人生相談」

 本書には、読者から寄せられる人生相談に、蛭子さんが独特の感性をもって答える「ゆるゆる人生相談」のコーナーもある。その人生相談の数、なんと108本。なかには「入社2年目で重要な仕事を任された。アドバイスをください」という問いに対し、「やる気を出さないことです。仕事ができない人がいるおかげでうまくいくこともあります」というトンデモ回答をしたり、「人生はうまくいかないですね」と嘆く相談者に「人生がうまくいくと思っているのが間違い」とバッサリ切り捨てたり、好き放題な回答が目立つ。特に蛭子節が光った回答を1つだけ要約してご紹介しよう。

Q.同僚はフェイスブックで、行った店やうまかった食事をアップして女子たちに注目されています。僕も人気者になりたいですが。どうすれば女性の興味をひきつけられるんでしょうか?

 オレもブログをやっていますが、あまり気乗りはしてません。(中略)フェイスブックで日々のことを書き続ける人は寂しい人ですよ。だいたい、その同僚は本当に人気があるんですかね。(中略)そもそも人間は、他人のことになんて関心ありませんよ。まして、人の幸せな姿を見れば、「不幸になれ」と思ってしまうもの。

A.「いいね!」の数は、やっかみの数

 読者は蛭子能収にどんなイメージを持っているだろうか。私は「卑屈でいい加減で自己中心的な考え方を持っているが、同時に物事の本質をとらえた聡明な人」という印象だ。もう少し言うならば、「蛭子能収をどういう人間ととらえるか」で、その人の人間性が分かるような気がしている。「世界一ゆるい自己啓発本」には、かなりゆるいテンションで物事の本質をとらえる考え方が書かれていた。

文=いのうえゆきひろ