「老後」について考えさせられる一冊―63歳の「プレ婆さん」による感動のデビュー作

文芸・カルチャー

公開日:2017/12/3

「老い」ていくとは何かを考えさせられる、昨今の時代背景にぴったりな作品『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子/河出書房新社)が2017年11月17日に発売された。第54回文藝賞を受賞し、全選考委員が絶賛、さらに久米宏氏、上野千鶴子氏、小林紀晴氏からも賞賛された作品を単行本化したものだ。

 本書で描かれるのは「老後」の生活を送る74歳のおばあちゃん、桃子さんの物語。結婚を目前に控えた24歳の秋に東京オリンピックのファンファーレに押し出されるようにして生まれ育った東北の故郷を捨て、上野駅に降り立った彼女。あれからはや50年が経ち、40年間住み慣れた新興住宅の一室で捨てた故郷、疎遠になった二人の子どもたち、死別した夫について考え、いまの「老後」生活に思いを巡らせる。「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」と。夫との死別を機に、自分はこの世界にいてもいなくてもいい存在なのだと考えるようになった桃子さん。それならば74年間で培ってきた自分なりの規範で生きようじゃないか。まさに「七十にして矩をこえず」を生き生きと描写した玄冬小説だ。

 本書の作者・若竹千佐子さんは「老後を」目前に控えた63歳の自称「プレ婆さん」。彼女の考える老後生活がこの一冊に詰まっている。青春、朱夏、白秋、玄冬いずれの世代にあるどなたにもこれからの「老い」について考えるためには必携の一冊。あなたも一度手に取ってみてはいかがだろうか。

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文=ムラカミ ハヤト