好評だけど高すぎるKindle Oasis——電子書籍専用端末の未来はあるのか?

ビジネス

2017/12/14

 電子書籍元年と言われた2010年ごろは、電子書籍と言えばKindleやkoboのような電子書籍専用端末をイメージする人が多かったはずだ。メディアも新型端末が発売されるたびに、大きくニュースで取り上げていた。

 紙の本のような表現が可能なEインクを採用し、低消費電力で明るい場所でも読書が楽しめる。スマホよりも画面が大きく、タブレットよりも軽くて持ち運びが楽。なによりも価格が安いことが魅力として捉えられていた。ところが、現在、専用端末の人気はすっかり影を潜めてしまった。10月にアマゾンは専用端末Kindle Oasisを発売したが、ほとんどニュースになることもないひっそりとしたスタートだった。

 このKindle Oasisは、アマゾンの電子書籍専用端末のフラグシップ機で、先代にはなかった防水機能も備え、お風呂やプールサイドでの読書が可能になった。画面サイズも7型と大きく、紙のマンガより読みやすい。それでいて重量は200グラムを切っており非常に軽い。バッテリーも液晶パネルに比べて格段に消費電力の小さいEインクの強みを活かし、数週間はもつ。筆者の周りの「本好き」な人たちからは、非常に評判のよい端末だ。

 しかしネックは価格だ。最も安い構成(Amazonで広告キャンペーン表示があるWi-Fiモデル・メモリ8GB)でも、3万3980円。無料3G通信のついた最上位モデルでは、4万4980円となる。Kindle Oasisで高い読書体験(Wi-Fiがなくても書籍情報の同期が取れる、マンガのような容量の大きな本をオフラインでも楽しむなど)を得ようとすれば必然的に最上位モデルを選ぶべきで、これはかなり覚悟が試される出費ではないだろうか。


 例えばアップルのiPadであれば、現在、最廉価モデル(Wi-Fiモデル・メモリ32GB)の価格は3万7800円。Wi-Fi+Cellular(SIMフリー)モデルは、5万2,800円で別途通信料が掛かるが、それでも価格は拮抗している。重量は470グラム前後と電子書籍専用端末の倍以上でバッテリーのもちも比較すれば良くはないのだが「日常的に持ち歩く1台」を選ぶのだとすると、用途の広いiPadのようなタブレット端末を選択する人が多いはずだ。

 初代iPadが登場したのは2010年。いわゆる電子書籍元年とタイミングが近いが、現在のものよりも画面解像度は低く、重量も680グラム前後とずっと重かった。紙と同じような感覚で本が読める電子書籍専用端末に当時は「選ぶだけの十分な理由」があった。しかし、その後タブレット端末の進化は続き、また同時にスマホの大画面化も進んだ。すき間時間にちょっとマンガや小説を読むくらいであれば、スマホで十分事足りる、という人も多い。

結果として、電子書籍専用端末は高性能化したタブレットと、大画面化したスマホの間で、存在感を無くしていくことになった。実際、2011年には電子書籍専用端末の出荷台数は世界で2320万台を記録したが、2016年にはこれが710万台程度に留まったとみられている。わずか5年ほどで3分の1以下の規模になってしまった格好だ。

縮小する電子書籍端末市場 消滅まであと何年?

 この事が、現在の端末の価格の高止まりを招いていることは否定できない。IT機器全般に言えることだが、製造ロットが多いほど、部品の調達が有利になり製造コストも不良品の比率も下がる。結果として価格を抑えることもできるのだが、この製造ロットが小さくなっていくと、このサイクルは逆の方向にまわりはじめる。現在のKindle Oasisの価格は、Kindleの第2世代が399ドル(約4万円)だったころを思い起こさせる。ライバルkoboやKindleの1万円以下の普及価格のモデルと市場を分け合っていることを考えてあわせても、専用端末の市場規模はKindle第2世代が登場したころの2009年と同程度かそれ以下に留まっていると考えられる。

 電子書籍専用端末は消えゆく運命なのだろうか?  実はこのテーマは電子書籍というコンテンツの形(パッケージ)を巡る話と関係してくる。紙の本と同じ感覚で読むことができ、しかも「何冊」も持ち歩けることをウリにした専用端末は「本」というパッケージを、いかに電子的に再現するか、ということに重点がおかれたデバイスだったと言える。

 しかし、これからの電子書籍は徐々にその形を変えていくはずだ。例えば、「小説家になろう」やcomicoようなウェブに特化したの電子小説・マンガサイトは、「本」や「何冊」という形に囚われないものだ。作品は話の区切りの良いところで小出しに更新されていくし、公開された作品に対して、読者が「いいね」を押したりコメントを残したりすることもできる。スマホ・タブレットのようなスマートデバイスでメッセージをやり取りしたり、ゲームや音楽も楽しんだりしながら、なおかつ読み物も、という利用シーンの中では、その方 がコンテンツの形としては自然で受け入れられやすく、デバイスも専用端末からスマホやタブレットといった汎用端末に移行していくのは 当然の流れなのかもしれない。


「本」というパッケージが良くも悪くも解体されていく中、本しか読めない専用端末はある意味ぜいたくな存在になりつつある。それを象徴するのが、「北斗の拳」の全エピソードや番外編が読める「全巻一冊」のような端末だろう。25,000円以上の「出資」で入手できるこの製品は、本どころか特定の作品しか読めないデバイスなのだが、多くの人がそこに価値を見いだしてクラウドファンディングに参加している。別の記事でまとめたように、この端末での読書体験は、他では得られないものだからだ。

現在の形での電子書籍専用端末は、その市場規模を更に縮小していくことになるだろう。一方で、スマートデバイスでは提供できないぜいたくな読書体験を演出する端末として、Eインクを搭載したデバイスはアナログレコードのように新たな存在意義を見いだされることになるはずだ。

文=まつもとあつし

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