実は多くのひとがよく分かっていない、もう一度学びたい“お金のしくみ”

暮らし

2018/1/8

 お金のしくみの教科書『MONEY もう一度学ぶお金のしくみ』が2017年12月18日(月)に発売された。「インフレ/デフレ」「恐慌の原因」「銀行の役割」「ビットコイン」など、一般常識とされつつも、実は多くの人がよくわかっていないお金の仕組みがまとめられている。

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 生きていく上で、なくてはならない“お金”。価値あるものとして、その重要性は誰しも知っているはず。しかし「懐にあるただの紙切れが、なぜそのような価値を持つのか」という本当の“しくみ”や“バックボーン”を知っている人は少ないのではないだろうか。

 同書では日常のちょっとした買い物から、アメリカ、ヨーロッパなどを舞台とした世界経済を動かす“お金”と“その流れ”のしくみを解説する。また「日本」を取り上げ、バブル期以降の日本の経済政策を分析。アベノミクスをはじめとする日本の経済政策が、海外からどのように評価されているのかという点も大きな見所になっている。

 インフレはしばしば悪い印象で語られることがあるが、同書では「インフレとは商品に対してお金の価値が下がる現象であり、それ自体に善し悪しがあるわけではない」としている。状況や受け手の立場によって、インフレもデフレもその意味や利害が変わってくるもの。

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■ハイパーインフレは社会を破壊する
 第二次世界大戦中、ナチスドイツはイギリス政府に揺さぶりをかける狡猾な作戦をしかけた。この策略はロケット砲、銃、その他、従来の軍備はまったく使わない。兵器となったのは偽造貨幣だ。捕虜たちはポンド紙幣(その後、ドル紙幣)の偽造に協力させられた。目的はイギリスに偽造紙幣を大量に流入させて、イギリスポンドへの信頼、ひいては経済全般への信頼を損なうことにあった。

 結局この偽造計画はうまくいかなかったようだが、その理論自体は実にしっかりしたものだった。およそ50年後、同様の計画がジンバブエで見事に進められた。通貨が国にあふれ、その価値は無に等しくなって、商人たちは紙幣を数えずに重さを量りだした。2008年7月4日、ハイパーインフレが頂点に近づき、首都ハラレの酒場では、ビール一杯の値段が1,000億ジンバブエドルに。さらに1時間後には、同じ酒場の同じビールが1,500億ジンバブエドルになっていた。

 ロバート・ムガベの準独裁政権は、新しいお金を大量に生み出し、ある時点では史上最高額の紙幣を発行した。それが100兆ジンバブエドル紙幣。筆者の卓上にも1枚ある。ネットオークションでおよそ10米ドルで買ったものだ。この価値の大部分は目新しさによるもので、購買力によるものではない。

■でも、インフレは大事な政策ツールにもなる
 世界のお金の大部分は、もはや商品に紐付けられていない。ジンバブエは、良質な紙とインクが切れるまでとてつもない量の紙幣を発行できた。そして紙が切れても各紙幣にゼロを足すことはできた。

 もっと先進的な経済では、お金はますます電子化されつつある。財布の中には紙幣が2、3枚しかない人でも、当座預金口座には何万ドルも入っていたりする。銀行口座に預けられた資金は電子記録としてしか現れないのに、100ドル札の束と同じ購買力を持つ。中央銀行の職員ひとりとノートパソコン、インターネット、濃いコーヒー入りのポットがあれば、ロバート・ムガベが酷使した印刷機よりもはるかに多く新しいお金を生み出せる。

 これはインフレの惨事にもなり得る―またはとても重要な政策ツールにもなる。法定通貨は商品貨幣にはできないやり方で、政策の柔軟性をもたらす。2008年の金融危機と闘うためにFRBが3兆ドルを生み出したのをご記憶だろうか。

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■デフレでものが安く買える?:そんな都合のいい話とは限らない
 たしかにインフレはよろしくない。物価がぐんぐん上昇し、別の言い方をすると経済学者の考え方では、お金が価値をどんどん失う。1杯目と2杯目の間にビールの値段が500億ドル上がって、頭にこない人がいるだろうか。

 だがデフレのほうがもっと悪いことになりかねない。穏やかなデフレでも、不都合な経済的反応の連鎖を起こしてしまう。はいはい、杯を重ねるごとにビールの価格が下がるのは、なんとも結構なことだと思えるかもしれない。でもその時、自分の所得もおそらく下がっている。

 まだ悲劇とはいえない―所得が下がり、いつも買うものの価格も下がるというだけだ。でも借金の額は下がらないと想像してみよう。給料が着実に下がる一方なのに、銀行は毎月同じ額の返済を期待する。大恐慌へようこそ。

 同書では、「お金の価値を保証しているのはだれ?」「為替って面倒。ユーロみたいに通貨を全部まとめられないの?」「ビットコインでお金のあり方はがらっと変わるの?」といったお金に関する新しい常識から、「長引く日本の不況に対して、政府はどんな景気対策を行ってきたの?」という政治的な疑問もわかりやすくまとめている。

チャールズ・ウィーラン(Charles Wheelan)
ダートマス大学で公共政策と経済学を教える。著書に全米ベストセラーとなった『Naked Economics』(『経済学をまる裸にする』)と『Naked Statistics』(『統計学をまる裸にする』)がある。

訳者:山形浩生(やまがた・ひろお)
評論家・翻訳家。大手調査会社に勤務するかたわら、科学、文化、経済からコンピュータまで広範な分野での翻訳、執筆活動を行う。著書に『新教養主義宣言』『要するに』『訳者解説』ほか。訳書にケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』、ピケティ『21世紀の資本』、クルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』『さっさと不況を終わらせろ』、エアーズ『その数学が戦略を決める』、伊藤穰一/ハウ『9プリンシプルズ』ほか多数。

訳者:守岡桜(もりおか・さくら)
翻訳家。訳書にクルーグマン『国際経済学』、アカロフ&クラントン『アイデンティティ経済学』、ボルドリン&レヴァイン『<反>知的独占 特許と著作権の経済学』、ウェイド『人類のやっかいな遺産』ほか多数。

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