伊坂幸太郎「僕は島田荘司信者」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

ダ・ヴィンチ4月号の「完全保存版 絶対おもしろいミステリーガイド270」では、作家の伊坂幸太郎さんが自身の作品のキャラクターたちがどのようにして生み出されるのか、インタビューに応じている。
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僕の小説の主人公はだいたい普通の人で、よく「透明な存在感」とか言われますけど、ようするに、僕なんです(笑)。ごく普通の日常を送っている僕が、非日常の冒険をしたいから小説を書いてるんですね。そして僕自身がすごく心配症で断言とかできないタイプの人間だから、人生の道標となるような、判断力のあるクールな人に憧れがある。だから「こっちに進め!」って断言してくれるような人を、小説の中に出したくなるんです。

でも、主人公がその人の言う通りにしたらうまくいったっていう展開は、あまり書かないんですよね。逆にうまくいかない、余計トラブルに巻き込まれたりするっていう、そういう流れでドラマが生まれるのかなぁと。 この人間関係の組み合わせ自体は、黄金パターンな気がします。

僕は島田(荘司)信者なんですけど(笑)、御手洗潔シリーズの「名探偵の御手洗潔&助手の石岡君」というコンビが大好きなんですよ。愛すべき天才にして変人と、凡人っていう。自分が石岡君になったつもりで、御手洗に憧れながら読んでいる。

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あれは「ホームズ&ワトソン」の島田さんなりの変形なわけですけど、僕も同じことを自分の小説の中でやってるんじゃないかなぁという気がします。  ただ、僕はあんまり「キャラクターを書く」という意識はないんです。小説を書く時は、最初に「こんなお話を書きたい」っていう大きな欲望があるんですね。「新幹線の中で殺し屋が戦うのっていいよね」とか。

次に、「こんな場面を書きたい」っていう欲望がある。キャラクターはどちらかといえば、ドラマを書きながらできていくものなんですよ。「この人、こんななんだねえ」って、書きながら理解していく。理解のヒントになるのは、行動よりも、会話ですね。その人がしゃべる雑談というかバカ話って、その人の個性をよく表していたりするじゃないですか。

読者がその雑談を楽しんでくれて、「キャラクターがいい」と言ってもらえているのだとしたら、嬉しいですね。バカ話をしたり聞いたりすることって、人生の中ですごく楽しい、大事な部分のような気がするんですよ。「このために生きてるんじゃないの?」とか思ったりもするんです(笑)。

(ダ・ヴィンチ4月号 「完全保存版 絶対おもしろいミステリーガイド270」より 取材・文=吉田大助)