まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第6回 電子書籍と相性のいいジャンル(コンテンツ)とは?
更新日:2013/8/14
電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!
ちば :ふむふむ、ふーん・・・うひょ、あはは・・・。
まつもと :(ちばさん、ついにおかしくなった?)ど、どうしたんですか?
ちば :ハッ! す、すみません。もうお時間でしたか。つい、これを読んでたら夢中になってしまって・・・。
まつもと :ちばさん、いま読んでいたのはライトノベル、いわゆるラノベですね。「ライト」と言いながら、奥深い作品も多いですから、ハマるのもわかります。
ちば :スマホで何気なく読み始めたらすっかり夢中になってしまって・・・。
まつもと :なるほど。そしたら、今日は電子書籍と相性の良い書籍のジャンルや各社の取り組みについてみていきましょうか。
出版不況の中、「ラノベ」が伸びている。
まつもと :いま出版不況と呼ばれる状況が続いているのは千葉さんご存じですよね?
ちば :は、はい。なかなか厳しい状況が続いてます。えーと、出版科学研究所さんの調査でも、1996年をピークに雑誌・書籍ともずっと「低落傾向」です。
参考リンク:社団法人 全国出版協会/目的と事業の概略・歴史
まつもと :そうなんです。そんななか、電子書籍は「期待の星」のように捉えられ、2010年は電子書籍元年と呼ばれたりもしましたが、残念ながら紙の本や雑誌の落ち込みをカバーするには至っていません。
ちば :うーん・・・、わたしも期待していたんですが、この連載の最初に取り上げたように現実は甘くなかったですね・・・。
まつもと :ところが、その中で唯一伸びているジャンルがあるんです。それがいまちばさんが読んでいた「ラノベ」です。朝日新聞さんの記事「朝日新聞デジタル:ライトノベルで勝負 角川に挑む講談社・集英社 」から引用してみましょう。
「ライトノベル(ラノベ)の成長はめざましい。
出版科学研究所によると、2009年の文庫全体の販売額は1322億円。
うちラノベは301億円と約2割にのぼる。
文庫全体の販売額が減少を続けるなか、04年から13.6%伸びている。」
ちば :おお・・・すごいですね。うらやましいなあ。
まつもと :いや、ちばさんが読んでいたそれも、まさにメディアファクトリーさん(MF文庫J)のライトノベルですよ。MF文庫Jの「ゼロの使い魔」は、累計450万部を超えるものすごいヒットになっているじゃないですか。
ちば :ほ、ほんとだ。
まつもと :朝日新聞さんの記事では、昨年10月にメディアファクトリーも加わることになった角川グループの売上シェアが大きいことが強調されています。アニメ化されるタイトルも続出していて、まさに旬のジャンルです。
電子書籍との相性は?
ちば :あらためて、各社のライトノベルの売上規模を見るとすごいことになっていますね。コミックやコミック誌も調子が良くないのに・・・。
まつもと :ストーリーの全てを、アシスタントなども作業しながら絵で表現するコミックに対して、基本的に作家一人が文字でストーリーを紡ぎ出すライトノベルは、作品が生まれるスピードも速いとされます。また映像化の際の翻案(設定に映像化に適した変更を加えること)もコミックに比べると細かいイメージが固定されていない分、行いやすいですね。
ちば :なるほど。表紙や挿絵は入っているけれど、全てが事細かに絵になっているわけじゃないですもんね。
まつもと :そうなんです。でも、その分そういったイラストを描く絵師さんと呼ばれる人たちの技量や、作品との相性が重要です。ライトノベルの編集者の方に話を聞くと、誰を起用してどんな絵をお願いするか、ものすごく神経を使うといいます。
ちば :電子書籍との相性はどうなんでしょう? 先日取材したニコニコ静画さんも、文字中心の本ではライトノベルに力を入れているといったお話しでしたが・・・。
まつもと :もともとITガジェット好き、つまり電子書籍にも親しむユーザーはSFやファンタジーといったライトノベルでよく扱われるテーマと相性はいいと言われますね。電子書籍のランキングを見ていても上位に必ずコミックや、いま注目されている時事を使っている作品にライトノベルが入って来ています。電子書店大手ブックライブさんの書籍月間総合ランキングを見てみましょう。
ちば :うーん、どれどれ・・・。お、まだスティーブ・ジョブスも入ってますね。人気だなあ。
まつもと :このランキングでは、6位の『ミニスカ宇宙海賊』と、7位の『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』がライトノベルです。6位の『ミニスカ宇宙海賊』は『モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)』としてアニメも放送中でしたね。
ちば :まつもとさんが真顔でラノベのタイトルを読み上げると、妙な雰囲気が・・・。
まつもと :・・・(コホン)。
ええと、まだ、すべての作品が電子化されているわけではなかったり、角川グループの「BOOK☆WALKER
がライトノベルに力を入れる一方、ほかの電子書店にはまだ多くの作品を展開していないこともあり、ランキングを席巻するような状況ではありません。
ちば :たしかに。MF文庫Jでも「MFラノベ☆コミック」というアプリを展開してますね。
まつもと :という状況ではありますが、紙の書籍での売上げの伸びや、読者層が比較的デジタル環境に抵抗がないことを考えても、今後、電子書籍の中でかなりの存在感を示すことになるのは間違いないと思います。