第7回ダ・ヴィンチ文学賞 結果発表!!

お知らせ

更新日:2013/8/5



 

 第7回ダ・ヴィンチ文学賞には、478作品の応募が寄せられました。たくさんのご応募、ありがとうございました。
 厳正なる審査のもと、3次選考を8作品が通過、最終選考に残ったのは3作品。そして、読者審査員100名と弊誌編集スタッフによる審査を経て、以下のような結果となりました。

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第7回ダ・ヴィンチ文学賞大賞 
該当作なし


個性的な3作品に審査員の意見が割れ、大賞は該当作なしに
 第7回を迎えたダ・ヴィンチ文学賞は、昨年に比べ応募数は減ったものの工夫の凝らされた力作が多く、読者審査員のコメントや選考会も白熱したものとなりました。審査にご協力をいただいた皆さま、ありがとうございました。
 ただ大変残念なことに、今回は大賞受賞作なしという結果になりました。最終候補3作品はいずれも個性的な魅力のある作品でしたが、それぞれに課題を抱えており、受賞には至りませんでした。



最終候補3作


『永遠よりも少し短い日常』 荻原裕幸
内容紹介●自我に目覚め、こころを持つようになったコンピュータたち。その一人シミズマサトはこころをアンドロイドの身体に移植し、見た目普通の人間と変わらない。ある日、メンテナンスのため研究所に赴いたマサトは、自分と同様の存在であるユウジが謎の失踪を遂げたことを知る。その不可解な経緯に好奇心を抱いたマサトはユウジの行方を探ることに。

編集部総評●人間とアンドロイドの共生というSFでは定番的なテーマを扱いながらも、言葉や描写が美しく文章もなめらかで、全体的に優しく温かな印象の残る作品。SFが苦手な読者も抵抗なく物語を楽しむことができると思います。きわめて人間的なマサトのキャラクターにも共感できますし、心とは一体何かを読者に考えさせる流れやミステリー的な展開も魅力的ですが、後半の盛り上げ方に難があり、物語が途中で終わってしまったような印象を受けました。アンドロイドたちが何を目指していたのか、それも見えにくかったと思います。

◆読者審査員コメント
●アンドロイドとこころ。没個性の機械と自然の対比や調和が見事だった。青葉、サボテン、紫陽花、鰯雲、曼珠沙華、鵙の声、金木犀の香り…自然は、季節は移り変わる。好き嫌いは別にしてなんとなくこころ惹かれる。人間もアンドロイドも同じ。また、失踪した友人を追うストーリーもおもしろく、緊迫した中にどこまでものどかな空気が流れている印象。相反するものが同居するそんな人間の特性がよく描かれていたと思う。(23歳・女性・会社員)

●主人公の人間らしさとアンドロイド的な部分の同居が丁寧に描かれていて、不自然な部分を感じることなく読むことができた。ただ、それだけに印象的な部分がなかったのも事実。主題の折り込み方や事件もちょっと強引な感じを受けた。(36歳・女性・フリーター)

●SFではお馴染みの設定で、映画『ブレードランナー』などが思い出される。しかし、アンドロイド解放運動やら推理小説めいた失踪劇の筋立ても持っており、それなりに新基軸を導入し、読ませる。アンドロイドは「永遠」だが人間は「永遠ではない」という自己認識をたどる小説でもある。そして、主人公が旧友の失踪を探るプロセス自体が、自分のアイデンティティを探求するプロセスと重なっており、新しいタイプの教養小説と思う。(40歳・男性・公務員)

●出自が違う対象と社会生活の中でどのように共存していくのかという、現在の社会問題にも照らし合わせられるテーマがあると思った。ただアンドロイドが人とは見分けがつけられない設定とはいえ、その描写はあまりに人間臭い。自分としてはもっと差別化された描写があったほうが、相互理解の齟齬や葛藤を深読みできて、もっと物語に感情移入できたかもしれないと少し残念だった。(48歳・専業主婦)

『鉄塔94』 野間賽助
内容紹介●夏休みの登校日、鉄塔オタクの高校生・伊達成美は、校舎の屋上から自転車で空を飛ぼうと試みる不思議な美少女・帆月智子に、94号鉄塔のことを訊かれた。翌日、伊達がその鉄塔を見に行くと、幽霊が見えるというクラスメイトの比奈山優がその場に来ており、当人の帆月も現れた。「鉄塔に子供の姿が見える」と言う比奈山と帆月の言葉に、伊達の目にも着物姿の子供が一瞬見えて……。鉄塔の謎を巡る夏休みの冒険譚。

編集部総評●伊達、帆月、比奈山。それぞれにちょっと変わったキャラクターですが親しみやすく、3人の距離感もいい感じ。鉄塔という物語を貫くシンボルも、懐かしさとファンタジックな雰囲気を醸し出すのにうまく使っていると思います。オマージュ的な作品の存在については、好意的にとる意見と新鮮味に欠けるという意見がありました。構成はまとまっていますし文章自体も読みやすいのですが、説明不足な感があって、物語に深みが感じられない。推敲不足の感もややあって、その点が残念でした。

◆読者審査員コメント
●突然の事態に驚かせて、平凡から非凡な日常へ落とし込んでいく流れは絶妙。自分たちが何者か不確かで不安なままの少年少女たちの心情が儚い美しさをもって描かれている。 鉄塔についての知識についてもただひけらかすのではなく、そうした知識にしか頼ることの出来ない少年たちの世界の狭さを表していたように感じる。それがラストシーンでは世界を越えていく絆となっていくのは見事な成長譚だと思えた。(39歳・男性・会社員)

●荒削りながらも、読者目線を意識しながら執筆しており、好感が持てる。文体がポップで読みやすいが、その分、地の文で説明があると目立つ。エピソード、アクションで表現して欲しかった。あっけない展開からの異界の風景描写はゾクゾクするものがあった。最初の、主人公が変な人に巻き込まれ型はよくありすぎてげんなり。幽霊が隣にいるが、自分は見えず、周りの霊感のある人は見えているくだりは、舞台役者という仕事上で経験があったので楽しく読めた。(34歳・男性・舞台役者)

●ひと夏の冒険と爽やかな恋というかわいらしい物語でした。キャラクターは高校生にしては幼く、中学生のほうがよかったように思います。物語の展開、動機、内面がほどよく描かれていて、物語としては成立していますが、YA小説といった印象を受けました。(34歳・女性・図書館司書)

●非運動部系青春小説。全体の進行、言葉のリズムが良い。しかし、映画のノベライズを読んでいるような印象もあった。しかし、除霊師の家系やお化けが見える不登校児の設定が唐突。最終的にうまくまとめた印象だが、作者は一体何が書きたかったのだろう。転校を繰り返すことで、「リセット癖」があった少女が気付いた、継続する友人の存在だろうか。そこに鉄塔を組み合わせることの意味が見いだせなかった。会話の連続、同じ場面を引っ張りすぎることも気になった。(47歳・女性・大学非常勤職員)

『みんな病んでる』 桐谷凶気
内容紹介●福島原発事故による被曝を恐れるあかねと母の徹底した放射能対策は、福島への風評被害や差別を助長するものとして周囲の人間たちから非難される。放射能汚染をめぐる人と人との対立に翻弄されながらも、自分にとって本当に大切だったものの正体に少しずつ気付かされてゆくあかね。自らの理性と感情との狭間で葛藤した16歳の少女の体験記。

編集部総評●今回、震災を扱った作品は何作も応募がありましたが、その中でもいちばん筆力と臨場感、オリジナリティ、著者のメッセージ性を感じた作品でした。放射能汚染を巡る人々の対立を題材としながら、あかねと母親の関係を描いた家族小説でもあり、自我に目覚めたあかねの成長小説としての側面も持っている。そういう意味からもかなりの力作なのですが、放射能被曝という現在進行形の問題を小説(エンターテインメント)として、いま読者に届けるときにはもう一歩工夫が必要な気がいたしました。

◆読者審査員コメント
●まるでノンフィクションのようで、読み手がどの登場人物に共感するかで評価が分かれる作品。主人公達の想いを発言とするがゆえに読み込む抵抗感も強いが、読者の気持ちを逸らさずに読ませる文章の力もある。フクシマの部外者たる私たち誰もが気持ちのどこかで割り切れず見ない振りをしてやり過ごしていることを、高校生という中途半端な立ち位置だからこその明快さでグサッと切開して突きつけられた感がある。(51歳・女性・会社員)

●時流を鑑み、来るべき題材が来たかというカンジ。この一年にあったことをよく構成したと思う反面、現実がいまだ予断を許さぬままに進行中であり、それがそのまま作品の未完成さにつながっている気がする。いまも続くあの騒乱、そこに身を置いたとしても作品であれば渦中であるということ以上の視点を持ち込むべきではなかったか。さらに言えば当事者でない立場であの事故を語ることにどれほどの真剣さがあったのか疑問を感じてしまう。(39歳・男性・会社員)

●高校生という立場の不安定さや弱さからくる葛藤と時事問題を絡めて、正義や善悪、何が信じられるのかといった問題に切り込んでおり、強い衝撃を受けた。物語に起伏や抑揚があり、個々のキャラクターと主人公とのエピソードを増やして掘り下げればさらに面白くなるかと思われる。重苦しい日常はまだ続くという閉塞感がもう少しあったうえで希望を見出だせるような方向だと思っていただけに、ラストが安易に爽やかな青春系に走ってしまったようで少々残念。(22歳・男性・大学生)

●「原発」という重い問題に、その時を生きている女子高生を描いた意欲作、とは認めるが、終始理論の展開と人間の汚い部分ばかり描かれており、読むのが苦痛であった。主人公を始め、すべての登場人物に「共感」できる部分はあれど、「好感」を持てる部分がなかった。(29歳・女性・会社員)


3次選考通過作品
『遺影を描いてくれないか』 斉河 燈
『俺と兄貴とご先祖様』 三与田ねぎ
『月は最初の夜に出ていた』 暮露めのう
『時の彼方より愛を込めて』 維羽裕介
『廃墟に咲く一輪の花とありったけのしあわせを贈る』 真朝 愛子


◆次回から、ダ・ヴィンチ文学賞は募集要項を変更いたします
第8回となる次回から、募集する作品の内容、枚数、締切等を変更いたします。より、ダ・ヴィンチらしさがでるような文学賞にしたいと考えておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。詳細が決まり次第、誌面・WEB等で発表いたします。