『放送禁止』の長江俊和が描く怪異。『東京二十三区女』は恐ろしさと切なさが同居するオムニバスドラマ

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更新日:2019/4/22

 2020年のオリンピックを控え、再開発が進む東京。だが、歴史の裏側には多くの怪異が潜んでいる。そんな東京23区の闇を、女たちの哀しい物語とともにあぶり出したのが4月12日よりWOWOWでスタートするドラマ『東京二十三区女』だ(第1話無料放送)。原作・脚本・監督を務めるのは、『放送禁止』シリーズなど、ホラーミステリーに定評のある長江俊和氏。全6話で、6人の女たちが繰り広げる6つの物語を描き出していく。

 失踪した母について知る精神科医(佐野史郎)から、渋谷川暗渠に呼び出される「渋谷区の女」こと涼子(倉科カナ)。

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 料亭の主人(長谷川朝晴)と道ならぬ恋に落ち、本妻(鈴木砂羽)を殺して夢の島に遺棄する「江東区の女」こと伸子(安達祐実)。

 老いたシナリオライター(小日向文世)を、その魔性でからめとっていく「豊島区の女」こと澪(桜庭ななみ)。

 不思議なタクシー運転手(竹中直人)の運転で、夜の港区を徘徊する「港区の女」こと希恵(壇蜜)。

 悪縁を断つとされる「縁切榎」を訪れ、絵馬を残す夫(小木茂光)の真意を探る「板橋区の女」こと薫(中山美穂)。

 鈴ヶ森刑場跡でたびたび目撃される「品川区の女」こと璃々子(島崎遥香)。

 ご覧のとおり、キャストは豪華そのもの。各話の主演女優もさることながら、暗闇で狂気をみなぎらせる佐野史郎、瞳の奥に仄暗い光をたたえた竹中直人など、腹に一物ありそうな俳優陣がドラマに奥行きを与えている。ホラードラマというと構成が似通いそうなものだが、2時間サスペンスのようなドロドロ人間ドラマ、タクシーで繰り広げられる緊迫の会話劇など、その内容もバラエティ豊か。死んだと思っていた人間の目玉がギョロっと動いたり、不気味な女に突然抱きつかれたりと、映像のインパクトも十分だ。どのエピソードも、ひねりの効いた展開、意外性のあるラストが用意され、ホラー好きはもちろんミステリーファンも楽しませてくれる。

 原作では文章から各区の風景を想像するしかなかったが、ドラマではほぼすべて現地でロケが行われている。その地の禍々しい空気感まで映像に収められ、登場人物とともに怪異スポットをめぐっているかのような臨場感を味わえる。時には、古い時代の渋谷の映像などが織り挟まれることも。ロケ地をめぐり、聖地(けして“聖地”ではないが)巡礼するのも面白いかもしれない。

 各区の怪異譚が横糸だとしたら、縦糸をなすのはフリーライターであり「品川区の女」でもある瑠々子と民俗学講師・島野仁(岡山天音)のエピソードだ。彼らはタブロイド誌に掲載するオカルト取材のため、6話すべてに登場して都内をめぐっている。最終話では、そんな二人の真の姿が明らかに。連作短編ミステリーのように、これまでの伏線が回収されていく快感を味わうことができる。

 なお、原作小説には各区の歴史、いわくつきスポットの来歴をより深く掘り下げている。サブテキストとして手元に置いておけば、ドラマをより深く楽しめるはずだ。

文=野本由起

『東京二十三区女』(全6話)
原作/長江俊和『東京二十三区女』(幻冬舎文庫) 監督・脚本/長江俊和 音楽/天休久志
出演/倉科カナ 月船さらら 阪田マサノブ/佐野史郎(第1話)
安達祐実 上村歩未 クノ真季子/長谷川朝晴 鈴木砂羽(第2話)
桜庭ななみ 藤原季節/小日向文世(第3話)
壇蜜 大西信満/竹中直人 (第4話)
中山美穂 マフィア梶田 浅川悠/小木茂光(第5話)
島崎遥香 白洲迅 山崎真実 藤木由貴/岡山天音(第6話)
※4月12日(金)より、WOWOWにて毎週金曜深夜0:00(24:00)~放送(※第1話無料放送)