本多孝好 ハードボイルド小説で60年代から現代の日本を描く

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1』は、実力派作家・本多孝好が新境地を見せる作品だ。

超人的な力を持つ昴たちに、政治家・渡瀬が依頼したのは家出娘・悠里の保護。政界を揺るがしかねない重要情報を持って逃げたという悠里を捜索し始めた昴たちだったが、別の勢力も彼女を追っていることに気付くというストーリー。超常的な力を持つ少年少女が繰り広げるビートの効いたハードボイルドな戦いが描かれる。

本多が目指したのは、これもまでよりもさらにエンターテイメント性の高い作品。

「このシリーズを始めようと思っていた時に、全体的なテーマとして考えていたのが、『自分なりに、自分の知りうる現代日本の過去を継承したい』ということでした。僕も40代になり、そろそろ過去を総括しないといけない年齢に入ってきているのではないかと感じるんですよね。何て言えばいいのかな。未来に対して責任を持てばいいだけではない、過去にも責任を持たなければならない世代になってきた、という認識があったんだろうなと思います。しかし、1971年生まれの僕が検証しうる過去は、60年代が限界だとも思う。それ以前は、日本史の範疇になってしまいますので」。

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そうして生まれたのが、いかがわしいビデオを製作販売する出版社を経営する、三井徹という男だった。
学生運動の敗北を未だに引きずり、社会の底辺で世を拗ねたような生き方をしてきた三井。だが、悠里というファクターが流星のごとく現れたことで、止まっていた時間が動きだす。時代に取り残された人間に見える現代日本とは、どのような形をしているのか。
1960年代をスタート地点にして、現代の日本まで一気に下る年代記(クロニクル)。クールな物語を下支えしている骨太な構成、これが本作の読み応えに繋がっていたのだ。

ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1』のもう一つの魅力、それは利害が絡みあう3つの陣営の息詰まる攻防戦と、仲間の間に流れるあたたかな愛情の鮮やかなコントラストにある。

昴とともに戦うのは、沙耶、隆二、良介の3人。皆、まだ子どもといってもよいような年齢だ。そしてもう一人、亘という仲間がいるらしい。そんな彼らを経済的に面倒を見ているのが渡瀬で、その見返りとして昴たちは渡瀬に従っている。だが、お互い信用はしていない。
一方、1年前から反社会勢力をターゲットにした殺人を繰り返すようになった謎の集団「アゲハ」。時折垣間見えるキャラクターは相当強烈だ。
それに対して、むしろ内向的でさえある昴たち。人を超えた力を持っていても、社会的には大人の庇護を必要とする若年者の集団であり、渡瀬の助けがなければ生活すらできない。

そんな状況下で、身内の絆を深めつつも、外部にはハリネズミのように刺を向けている姿はあまりにも普通の若者であり、ふとした瞬間、守ってあげたくなるほど弱々しく見えることさえある。頼れるものは仲間だけという小さな足場で世界と対峙しなければならない昴たちの姿に、つい自分を重ねあわせてしまう読者も少なくないのではないだろうか。

10月に発売予定のACT-2や、『小説すばる』5月号から開始予定のACT-3では、思わぬ人が思わぬ動きを見せるなど、まだまだ一山も二山もある模様。ニューヒーローの誕生を目の当たりにしたい向きなら、見逃す手はない。

取材・文=門賀美央子

(ダ・ヴィンチ5月号「『ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1』 本多孝好」より)