まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第8回 人気マンガ家に聞いた「電子書籍と隣接権のこと」 

更新日:2013/8/14

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!



 

みやわき :今日は講談社にやってきましたよ、まつもとさん。

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まつもと :あれ? ちばさんは?

みやわき :体調不良でお休みです。なので、今日は僕が代役を務めます。ゴホゴホ。

まつもと :いや、みやわきさんもお風邪のような・・・。

みやわき :大丈夫! 今日は薬をしっかり飲んできましたから。さあ!先生にお話しを伺いましょう!ゴホ。

まつもと :だ、大丈夫ですか?

みやわき :大丈夫です。へ、編集部でいま春風邪が流行っているだけです・・・。

まつもと :は、はい。では、この連載でも取り上げたニコニコ静画(電子書籍)での20周年企画が進行中の「金田一少年の事件簿」などの原作を手がけられ、ご自身も電子書籍に取り組む樹林伸先生に、作り手として電子書籍やその周辺をどう見ているかを伺っていきましょう。




「金田一少年の事件簿 20周年」公式HP

■電子書籍は本との新しい出会いを生む

みやわき :それでは先生、よろしくお願いいたします。

樹林 :よろしくお願いします。


樹林 伸(きばやし・しん●漫画原作者、小説家、脚本家。東京都出身。1987年に講談社に入社。『週刊少年マガジン』編集部で漫画編集に携わる。『MMR マガジンミステリー調査班』の主人公「キバヤシ隊長」のモデルとなった人物。編集者時代の担当作品には『シュート!』『GTO』などがあり、原作クレジットがなくとも原作者並みにストーリーに関わってくることで有名だった。1999年に講談社を退社。原作者として独立する。天樹征丸、亜樹直などのペンネームが存在。代表作に『金田一少年の事件簿』『探偵学園Q』『サイコメトラーEIJI』『神の雫』『BOODY MONDAY』など多数)

まつもと :現在、金田一少年の事件簿20周年企画が進行中です。ダ・ヴィンチ電子ナビでも、電子書籍とマンガという面から紹介させていただきましたが、原作者(金田一少年の事件簿では、「天樹征丸」として作品作りに取り組んでいる)の立場から、ニコニコ静画(電子書籍)との取り組みをどんな風にご覧になっていますか?

樹林 :無料公開については「立ち読み」ができなくなった雑誌をどこかで立ち読みして欲しい、という思いがまずありましたね。僕自身、子供の頃からマンガが大好きで本屋さんで立ち読みをしていました。そして、面白かったら買っていたんです。でも、いまその「入り口」が無くなってしまった。




「金田一少年の事件簿 20周年」ニコニコ静画公式HP

まつもと :たしかに、本屋さんやコンビニなどではシュリンク(フィルムなどで雑誌を覆い、中を読めなくすること)されることがほとんどになりましたね。

樹林 :そこに風穴を開けることができればいいなと。僕なんかいまでも立ち読み魔で、本屋さんで知り合いが描いたマンガを隙間から一生懸命のぞき込んだり、駅の売店でも立ち読みしちゃって怒られたりしますから。買いましょうよって話だし、最終的には買うんですけどね(笑)

みやわき :たしかにダ・ヴィンチの読者アンケートでも「店頭で立ち読みして作品を気に入り、ファンになった」という回答が多いんです。でも、書店の数が減り、配本される書籍の数も減ってしまうと、そもそも立ち読みどころか、本の表紙を見る、という機会すら減ってしまっていますよね。

樹林 :そうなんですよ。やっぱり、人間迷うし、電車なら移動中付き合うことになる作品が気に入るものかどうか、ちょっとは中身を見て買いたい訳じゃないですか。本屋さん然り、コンビニ然り――僕はそこにちょっと閉塞感を覚えていたんです。

まつもと :電子書籍、特にマンガでは1話試し読みといった取り組みがよく行われていますが、先生も利用されたりするのでしょうか?

樹林 :しますね。その上で両方(紙の本と電子書籍)買っちゃうこともあります。家では普通に紙の本で読むんですけどね。続きを外出先で読んだりするわけです。iPhoneは常に持ち歩いているから楽なんですよね。家に忘れることがない(笑)。いずれにせよ、電子書籍は「立ち読み文化復活」につながるんじゃないかなと思っています。




「金田一少年の事件簿 20周年」電子コミックアプリ

■ニコニコ静画(電子書籍)との取り組み

まつもと :現在、金田一少年の事件簿が20周年を迎えたと言うことで、様々な企画が行われています。ニコニコ静画(電子書籍)との取り組みでは、1週前の回が無料で読めるだけでなく、読者が推理に参加することもできるなど、新しい試みも。原作者としてはどんな風に見ていますか?

樹林 :推理に関しては原作者としては勇気の要る話ですよね(笑)。「犯人こいつだ」とずばり当てられてしまうと、「わ、やばい」と焦りますね。でも、ドキドキしながらも楽しんでいますよ。まるで学校の教室でワイワイやっているみたいな、遊び場がある感覚。

まつもと :読者からの反応をリアルタイムで見ることができる場があることは、作品作りに影響を与えたりすることはあるのでしょうか?




(c) 天樹征丸・金成陽三郎・さとうふみや/講談社

樹林 :それは――敢えて考えないようにやっています。

まつもと :見て、楽しんではいるけれど、ご自身の「作り方」は変えない?

樹林 :アマゾンとかのレビューなどでもすごく不愉快な、「お前読んでないだろ!文句言いたいだけだろ!」っていうコメントも散見されますよね(笑)。そんなコメントを見て「・・・」となることは正直あります。
 でもそういう負の影響を受けないことが大事かなと。これはマンガに限った話ではないですけれど、クリエイターにとってネットからの影響を受けないことは、結構大事なことだと思っています。

まつもと :たしかに、ネットからの反応で落ち込んでしまう作家さんも多いと聞きます。最近はTwitterなどもありますし。

樹林 :でしょ。ホントにそれで壊れてしまった漫画家さんも一杯見てきていますので……。貶(けな)されて傷ついてもダメだし、褒められて調子に乗ってしまってもいけない。つまり、本当は見ないのが一番。でも、それはなかなか難しいですよね。なるべく、見ない方がいいかな。現実社会だと、「キミ、ちょっと来なさい」となって逆にやりこめられちゃう訳だけど、ネットだとそういうわけにいかない(笑)

まつもと :そういう輩をやりこめる場所が必要かもしれませんね(笑)

樹林 :そうそう! しかし、かりにやりこめたとしても、ネットだと名前を変えて出てきたりする。

みやわき :ニコニコ動画とか一部のTwitterや掲示板ビューワは、特定の人の発言を見えなくする機能があるものも増えてきましたから、そういうものを活用するのも手かもしれませんね。

まつもと :でも、先生は楽しんで見ている?

樹林 :まあ、長くやっていますからね。ちょっとくらい見ても影響を受けないですよ、ムッとしても、少し経つと忘れてしまいます(笑)。次から次に新しい事やっているので、気にしている暇がないかな。あと、ニコニコ静画とかニコニコ動画を見ていると、基本的に応援しよう、楽しもう――つまり拍手する気持ちがコメントに表れているので、見ていて気持ちが良い、というのもありますよね。