ヤマザキマリ断言「ファッション誌に出てくるようなイタリア男はいない」

マンガ

更新日:2012/5/2

 ヤマザキマリの『 望遠ニッポン見聞録』は、17歳で世界を飛び出して以来、世界中を飛び回り、異文化交流を重ねてきた漫画家である著者が文章で綴った随筆。なぜ外国映画を日本語で吹き替えしたものは、登場人物の口調がドSなの?など、日本に暮らす日本人にとっては新鮮な視点が目白押しのエッセイが28本収録されている。

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 例えば、古代ヨーロッパと縄文時代の日本、現代日本で流行しているフィギュア(彫刻)の違いから、その時代ごとの男性の「女性嗜好」を探ってみたり。「しゃがむ」という動作は実は、アジア人特有のものなのだと、文化人類学的に考察してみたり。ある回では、「いっそブラジル人になれればいいのに」とポツリ。その理由とは? 各回は自筆の挿絵(一コマ漫画)付きで、エッセイの中身を面白おかしく色付けている。
 作家自身は、ぼっとん便所(くみとり式の和式便器)特有の「恐怖」こそ、日本人による世界最高峰トイレ文化を生む原動力になった…と綴った回が、格別お気に入りだとか。

 「自分のバカげた考証力に感動しました(笑)。子供のころ一度くみ取り便所の穴におっこちそうになって、縁に引っかかったランドセルで命拾いしたこともあります。なので思い入れはひとしおです。あとはやはり伊達男の章ですね。日本の某男性ファッション誌に出てくるようなイタリア男は、どこを探してもいません! 不倫騒動でメディアを騒がせたベルルスコーニ(元首相)を“でもイタリア男、って感じで好き”とか言ってる人がいると、爆発しそうになることしばしばだったので(笑)、思いをぶちまけました」

 この人は猛烈にパワフルで、稀代の面白がり屋なのだ。異国の地に分け入っては「なんでも見てやろう!」と楽しみ、日本人コンプレックスに直結しかねないカルチャーショックの数々も、真顔で悩みつつ面白がってみせる。
 長引く不況や、東日本大震災で受けたダメージで、自信を失っている日本人も多い。そんな人々の気持ちを、この本はそっと上向きにさせる。改めて今、ヤマザキの内にある日本への思いとは。

 「儚さや脆さが背中合わせでなければ生まれない、繊細な優しさや深さって有ると思うのです。自然災害の絶え間ないこの国ではそれを強く感じます。日本では欧米で感じるような徹底的な合理主義性とか、人間至上主義をたたえる威圧的な空気はどこにもありません。

 自然にどんなに過酷な試練を与えられようとも、春には野に咲く花の美しさを賛美し、温泉に浸かっては地球の恩恵を感じられるその寛容な心。昨年の震災時に世界中で話題になった日本人の冷静さと忍耐力は、やはり日本という土壌でなければ育まれないものなのかもしれません。そんな日本の領土に日本人として生まれた事は、例えどんなに色んな国の素晴しさに感動し続けても、最終的には自分の誇りでありますね」。

取材・文=吉田大助

(ダ・ヴィンチ5月号「『望遠ニッポン見聞録』 ヤマザキマリ」より)