堺雅人を作った3冊の本 「僕は“偉人フェチ”だった」

芸能

更新日:2012/5/25

 ダ・ヴィンチ6月号では特集「男と、本」で読書を愛する俳優、タレントに読書の魅力、愛読書を紹介している。特集の巻頭を飾ったのは、俳優の堺雅人。堺さんには、「堺雅人を作った本」というテーマを伝え、3冊選んでもらった。

堺雅人が選んだ本は下記の3冊。
学研総合図鑑『原色ワイド図鑑』(本館20巻+総索引)(学研)
伝記文庫D『湯川秀樹』二反長 半(ポプラ社文庫)
『どくとるマンボウ青春記』北 杜夫(新潮文庫)

 『原色ワイド図鑑』に関しては「僕が5歳くらいの時に、両親がセールスマンから買わされたんです(笑)。何か気になることがあったら、この図鑑を開けばいつでも調べられる。自分にはない知識が“そこ”にあるっていうのは、子供心に非常に安心感があったんですよね」
 何よりも大きかったのは、俳優の仕事を進めるうえで役立つ、ある動詞を手に入れたことだった。
「調べる、という選択肢が身近にあったことは非常に大きかったです。例えば、僕は年明けに『大奥』という映画を撮っていたんですが、台本を読むのと同じぐらい自然な感じで、書物を開いて『大奥』について調べ、資料を探して右衛門佐(えもんのすけ)という実在の人物を調べるということをしました」

 小学校に入ってからは、図鑑をめくりつつも、新たな読書に夢中になった。ポプラ社の子供向け「偉人伝」シリーズだ。
「小学生ながらにフェチだったんですよ。偉人フェチ(笑)。これも一番最初は、親が与えてくれたんだと思いますね。親から“偉い人の話でも読みなさい”と言われる、ぎりぎり最後の世代だったと思うんですよ。高度経済成長の時代に生まれた人間はみんな、偉人伝で育ったんじゃないかな?」  
 一冊読めば、一人の偉人をまるごと理解できる。まるで野球カードをコンプリートするように、お小遣いでせっせと買い集め全巻読み進めた。
「将来は偉人になるつもりでした(笑)。というか、周りがなぜ、偉人じゃないのかが分からなかったんです。“みなさん偉くなりたくないんですか?”と本気で思ってたんですよ、周りの大人たちに対して。なぜそんなに酒を飲み、ダラダラと愚痴を言い……“なぜ君たちは凡人のまま一生を終えることに甘んじてるのか!”と」

advertisement

 だが、中学に進学し視野が広がった途端、「しっぺ返し」にあった。
「自分は何ひとつ分かってなかったということに気付いて、ぞっとしました。つまり、偉人伝に書かれていることは実は、その人の都合のよい一部だけであって、書いた人のバイアスがかかっている。読んだからといってその人のことは分からないし、何よりも、世の中には偉人伝に書かれない凡人のほうがよっぽど多いんだと気付いたんですね。私というこの特別な存在も、見ようによってはただの記号的な一凡人になってしまうのだ、と。現実とはそういうものなのだ、と。偉人伝を必死に読んでいた自分を、非常に恥じたんですよ。自分を特別な人間だと思い込もうとしていた自意識を、深く恥じたんです」

本誌ではこの他、堺雅人さんの読書歴をたっぷり紹介している。

取材・文=吉田大助
(ダ・ヴィンチ6月号 特集「男と、本。」より)