“日本のエンタメ小説の最高峰”が決定! 戦後最大で現代の詐欺のルーツ・横田商事事件の残党が主人公!【角川三賞贈賞式レポート】

文芸・カルチャー

2019/12/7

(左から)滝川さり氏、月村了衛氏、北見崇史氏

 令和元年11月29日(金)、東京會館にて「角川三賞 贈賞式」が開催された。はじめに「第10回山田風太郎賞」について、選考委員を代表して京極夏彦氏が登壇。「山田風太郎という一種とらえどころのない、それでいて大変に魅力的な大作家の名前を冠した賞。候補作品はどれもジャンルも傾向も異なり、しかも“日本のエンターテインメント小説の最高峰”を、という眼目があるので、最終候補作においては質も完成度もユーザビリティも高く面白くて大変選びにくかった。山田風太郎賞が第10回を迎えてますますその傾向が強く、本年が一番苦しかった」と述べた。

『欺す衆生』(月村了衛/新潮社)

 最後まで勝ち残り大賞に選ばれたのは、月村了衛氏の『欺す衆生』。本作は、タイトルの通り詐欺師の小説だ。戦後最大かつ現代の詐欺のルーツとされる「横田商事事件」の残党・隠岐が主人公で、かつての同僚・因幡に導かれるがままビジネスを再興した隠岐は、詐欺の魅力に取り憑かれていく。それはやがて国家を欺く一大事業へと発展していく――。

京極夏彦氏

 京極氏は、月村氏の通底する魅力は「まじめさ」だと評した。「『詐欺をまじめに書いたらどうなるか』まさにその通りの小説でした。詐欺の手口を学びたい方にはまたとないすごいマニュアルになるんじゃないか」と冗談を交えながらも、「犯罪をおかす人間を主人公にした悪漢(ピカレスク)小説は、読んでいるうちに反社会的行為に対して、読者もシンパシーをもってしまうのが読みどころ。本作もそうだが、特筆すべきは主人公が善人なんですね。やっていることは紛うかたなきダークサイドそのものなのですが、視点人物は常に光の方向をむいている。そのねじれた内容を面白く読ませるには、筆力が必要。一般的に善人が闇落ちする話なのかなと思うのですが、最後までメンタリティが保たれていてハラハラさせる。なかなか醸せるものではないし、主人公以外は騙す人間も、騙される人間も全員悪人。こんなに珍しい小説はない」と評した。

 さらに、他の作品を押しのけて受賞に至ったのには、ある選考委員の「だってこれ普通におもしろいじゃん」という言葉が決め手になったという。「ややこしいことをやりながら、ただ普通に読んで楽しめるというのは、エンタメ小説にとっては最高の褒め言葉」と話した。

 受賞者月村さんは、感謝の気持ちとともに、「36年前に聖蹟桜ヶ丘の自宅で山田先生とお話ししたことが人生で数少ない自慢話です。36年の時を経て山田先生のお名前を冠した賞をいただけることに、運命のめぐりあわせを感じます。私は2010年デビューですのでまもなく作家生活10周年を迎えます。山田風太郎賞も10周年ということでいささか自己満足ながら縁を感じる」と喜びを述べた。

 さらに、「飛び抜けて優秀な作者であったとは思っていませんが、歴代受賞者の中で最も風太郎愛に満ちた受賞者であることは間違いない」と話しながらも終始謙虚な物言いで、月村氏の人柄が表れる受賞挨拶だった。

綾辻行人氏

 つづいて「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」が一緒になり、賞がリニューアルされた「第39回 横溝正史ミステリー&ホラー大賞」の贈賞式が行われた。選考委員を代表して綾辻行人氏が「選考会は真っ二つに分かれ、有栖川さんと真っ向から対立し色々と揉み合ったが絶交せずにすんだ」と話し会場の笑いを誘った。

 ミステリとホラーを融合させたハイブリッドな作品が多かったそうだが、受賞作は、「ホラー小説」にあたる北見崇史氏の『出航』に決まった。

 綾辻氏は、「型にもはまっておらず、本格ミステリの趣はほとんどないが、往年の『ガロ』の漫画を読んでいるような陰鬱な感じ、文章も重たいし主人公もうじうじしているし、読みにくいなと思いながらも読み始めたらどんどん妙な世界に連れていかれた。北海道のある寂れた村にたどり着いた主人公が本当に酷い目にあう話なんですが、あまりに酷いのにどこかユーモラス。筆がひたすら陰惨なところに、快楽味があって、のってしまうと楽しくてしかたなくなる。最後にとんでもない結末を迎えるひどい話だが、快哉を叫んだ」と話した。また、「ジョン・カーペンダーに映像化してもらったらすごいものになりそう。他にない力のある小説」と評した。北見氏に向けて「どんどん作風を極めていってほしい。またどうやって間口を広げていくのか、多くの読者に読んでもらうのは作家の課題」とアドバイスを送った。

 北見氏は、「真剣にホラーを書いたのにユニークホラーになってしまった」と話し、その理由については「中2の時はじめて読んだ小説が『スラップスティック』で、それまで教科書しか読んだことなくて、現実の小説の世界は全く違くて自由でパワフルであることを知りました。それから小説を読み漁った経験が頭や体に染みついてエンジンになって。執筆中、ホラーだからとシリアスに沈み込むように書こうとすると、“お前それは面白くないだろう”と横からささやきが聞こえて。思春期にもらったものがふーっと降りてきて書けたのが『出航』でした。多感なときに本をたくさん読んで自分のエンジンのひとつにすることがすごく大事だと思った」と話した。

 残念ながら「第10回 野性時代フロンティア文学賞」の大賞は該当なしとなった。また次回どんな作品が誕生するのか楽しみにしたい。

【山田風太郎賞】
選考委員:奥泉光、京極夏彦、筒井康隆、林真理子、夢枕獏(敬称略・50音順)
※今回で京極夏彦氏が退任、次回より恩田陸氏、貴志祐介氏が加わる。
受賞作:月村了衛『欺す衆生』

【横溝正史ミステリ&ホラー大賞】
大賞:受賞作なし
優秀賞:北見崇史『出航』
読者賞:滝川さり『お孵り』
選考委員:綾辻行人、有栖川有栖、黒川博行、辻村深月、道尾秀介(敬称略・50音順)

【野性時代フロンティア文学賞】
受賞作:受賞作なし
奨励賞:高橋弘和『むかさりの彼方』(刊行予定なし)
選考委員:冲方丁、辻村深月、森見登美彦(敬称略・50音順)