森達也、新作取材中に何度か不思議な体験に遭遇

文芸・カルチャー

2012/5/29

森達也さんの『職業欄はエスパー』は、ノンフィクション史上に残る傑作だ。「超能力者」としてマスコミに登場する清田益章、秋山眞人、堤裕司の3人に長期取材を敢行。ときに挑発的な言葉を投げかけながら、スペシャル番組では決して見ることのできない、超能力者の孤独な素顔をあぶり出してゆく。

このほど刊行された『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』は、その続編にあたる作品だ。前作刊行から約11年。森さんが今、あらためてオカルトをテーマにしたのはなぜなのだろうか。

「いちばんの理由は、僕がこのジャンルを好きだからでしょうね。子どもの頃、超能力や心霊現象の番組があれば欠かさず観ていたし、未だに強い興味を持っています。取材していれば、どこかで本物のお化けに出会えるんじゃないか、というような思いがあるんですよ」
そう言って笑う森さん。死刑制度やオウム真理教問題など、社会のタブーに切り込んできた硬派なドキュメンタリー監督&ノンフィクション作家の意外な一面を見た思いがする。しかし、こうもつけ加えた。

「オカルトは心理学・社会学・メディア批判など、さまざまな観点から論じることができる。非常に豊かなものを含んだジャンルなんです。最近の芸能人と占い師の騒動を見ても分かるとおり、取るに足らないものと簡単に切り捨ててしまうことはできません」

今回主人公になるのは、オカルトと呼ばれる奇妙な現象そのもの。オカルトの本質を見極めたいという思いが、本書のモチーフになっている。

森さんが取材した人物の一部をあげてみると、大谷宗司(心霊科学協会理事長)、荒川靜(スピリチュアル・ワーカー)、冨士谷紹憲(「政界の陰陽師」と呼ばれた占い師)、石川幹人(明治大学教授)、木内鶴彦(臨死体験者)、DaiGo(メンタリスト)などなど。肯定派、否定派、いずれにも拠らない森さんのスタンスがうかがえるラインナップだろう。

多くの取材を通して、森さんは何度か不思議な体験をしている。たとえば幽霊が出ると噂される寿司店に行った時には、実際に誰もいない自動ドアが開閉するのを目の当たりにした。

ほかにも、スプーン曲げや霊視の現場に何度も立ち合っている森さんだが、安易な結論に飛びつくことはない。
「認知には限界がありますから。僕がいくら見た、聞いたといったって証拠にはなりません。スプーン曲げにしたって、僕の知らないトリックを使っている可能性は否定できない」と、あくまで主観的な体験に過ぎないことを強調する。信じるか信じないかは読者次第。結論を出すより、じっくり考えてみよう、と森さんは促すのだ。

オカルトに興味がある人はもちろん、超能力やUFOなんて、という人にも是非読んでもらいたい知的刺激に溢れたノンフィクション。あるかないかでは語りきれない、オカルトの複雑な面白さが伝わってくるはずだ。

「今後もこのジャンルには興味を持ち続けるでしょう。第3弾を書くとしたら、今度こそ証拠を掴みたい。幽霊を捕獲するくらいはしたいよね(笑)」

取材・文=朝宮運河
(ダ・ヴィンチ6月号「『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』 森達也」より)