トレンドは“多様性の理解”? 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」が発表! 総合グランプリは『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』

ビジネス

更新日:2020/2/21

 ビジネススクールのグロービス経営大学院と、ビジネス書の要約文をアプリやサイトに配信するインターネットサービス「flier(フライヤー)」を運営する株式会社フライヤーは、ビジネスパーソンが「読むべき本」を選出するコンテスト、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」の授賞式を、2月18日にグロービス経営大学院東京校で開催した。今年で5回目となるビジネス書グランプリは、ビジネスパーソンの読書習慣を育てて出版業界を盛り上げたいという思いから創設された。総合グランプリには『FACTFULNESS』(ハンス・ロスリング他/日経BP)が輝いた。ほか、全6部門の受賞作が発表され、著者や担当編集者が登壇した。

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」受賞作品は以下の通り

総合グランプリ 『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作、関美和:訳/日経BP)
イノベーション部門 『売上を、減らそう。 たどりついたのは業績至上主義からの解放』(中村朱美/ライツ社)
マネジメント部門 『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(工藤勇一/時事通信社)
政治・経済部門 『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作、関美和:訳/日経BP)
自己啓発部門 『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(北野唯我/日本経済新聞出版社)
リベラルアーツ部門 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ/新潮社)
ビジネス実務部門 『メモの魔力 The Magic of Memos』(前田裕二/幻冬舎)

 各部門の紹介と著者のコメントをみていこう。

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【マネジメント部門】『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(工藤勇一/時事通信社)

【書籍紹介】
宿題はいらない。クラス担任制度や中間・期末テストも廃止――なぜ千代田区麹町中学校は学校の「当たり前」をやめたのか?

『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』著者の工藤勇一さん

【著者コメント】
麴町中学校の校長になって6年たちますが、ようやく方向転換できてきたかなというところです。この本に書いてある“テストがなくなった”とか、“担任がいなくなった”とか、“宿題をなくした”といったことがメインではなく、なぜそんなことが必要なのかということに気が付いて、日本中が変わってくれたらうれしいです。

【イノベーション部門】『売上を、減らそう。 たどりついたのは業績至上主義からの解放』(中村朱美/ライツ社)

【書籍紹介】
「働きやすい会社」と「経営」は両立できる! 人生100年時代に考えたい、幸せに働くための「仕組み」とは。

『売上を、減らそう。 たどりついたのは業績至上主義からの解放』著者の中村朱美さん

【著者コメント】
2020年になっても飲食業や接客業の働き方はまだまだ変わっていません。私たちは業績至上主義からの解放を考えて、7年前に1日100食という上限を決めた飲食店を作りました。利益も働き方も諦めずに、全従業員が18時までに退社する。この働き方をもっと日本に伝えていきたいです。

【自己啓発部門】『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(北野唯我/日本経済新聞出版社)

【書籍紹介】
「天才」「秀才」「凡人」の間に起こるコミュニケーションの断絶をなくすには? 「凡人」の主人公のストーリー。

登壇者は『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』担当編集者、日本経済新聞出版社 桜井保幸さん

【著者コメント(代読)】
この本は私自身が、あるビジネスパーソンとしてもっとも悩んだときに生まれた本です。経営者、起業家、ビジネスリーダー、立場によって起業家のストーリーとしても読めるし、タレントマネジメント論にも読めるし自己啓発としても楽しめます。

【リベラルアーツ部門】『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ/新潮社)

【書籍紹介】
「息子」が通うのは、イギリスの元底辺中学校。人種差別も貧しさもあたりまえにそんざいするけれど、青春は熱く、日々はきらめく!!

登壇者は『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』担当編集者、新潮社 堀口晴正さん

【著者コメント(動画メッセージ)】
身近な息子の中学校の話を書きたかったわけではなく、そこから透けて見える政治や社会のことを書いた本です。また、本が世に出た後もSNSでの投稿や書店員さんの熱意など、自分の本という概念より自分たちの本であり、みなさんに育ててもらっていると思います。

【ビジネス実務部門】『メモの魔力 The Magic of Memos』(前田裕二/幻冬舎)

【書籍紹介】
たかがメモ、されどメモ。自分を深く知り、夢を叶えるための第一歩を踏み出したいあなたに贈る、知的生産のためのメモ術。

『メモの魔力 The Magic of Memos』担当編集者、幻冬舎 箕輪厚介さん

【著者コメント(代読)】
受賞ありがとうございます! こちらは私前田裕二ひとりで作った本ではなく、今や最強最高のパートナーである担当編集者の箕輪厚介さんをはじめ、幻冬舎のみなさん、箕輪編集室のみなさんやメモ魔コミュニティのみなさんほか読者のみなさんのおかげです。本が売れない時代だと叫ばれて久しいかと思いますが、本の力を信じています。

【担当編集者・箕輪厚介さんコメント】
本は売って終わりではなく、どうサービスを続け、読者の人生が変わるかが大事。メモ魔塾というオンラインサロンでは、みんなでメモの話をしたりイベントを立てる。ダルビッシュさんがSNSでメモについて投稿をしたら、僕と前田さんで全力で絡みにいく。『メモの魔力』関連の話をTwitterでつぶやくなど、いかに読者の日常に接点を作るかを考えています。前田さんの力と読者の力がすごくうまくいったのが本書なのかなと思っています。

【総合グランプリ】『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作、関美和:訳/日経BP)

【書籍紹介】
世界はどんどん悪くなっている――。そんな思い込みから脱し、「世界を正しく見る習慣」を学べる希望の書。

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』担当編集者の日経BP 中川ヒロミさん(右)と翻訳者の関美和さん(左)

【担当編集者・中川ヒロミさんコメント】
私が著者のハンスさんを初めて見たのがTEDだったと思います。難しい話を、なんておもしろく話をするんだろう! と感動しました。ハンスさんがちょうど本を書くと聞き、日本語版を出したいと思ったのが本書で、昨年無事出版できました。ハンスさんは残念ながら2017年に亡くなってしまいましたが、最後の1年くらいはこの本を出すために費やし、専念した本です。日本でもこれほどまでに支持されていてご本人も喜んでいると思います。

【翻訳者・関美和さんコメント】
Introductionから5章までは上杉さん。6章から一番最後の諸事までは私が翻訳しましたが、上杉さんは翻訳者の域に留まらず、ウェブ脚注まで全部翻訳してくださいました。中川さんをはじめ、翻訳者という難しい動物をつかいこなしてくださった営業のみなさん、読んでくださった読者のみなさんに感謝し、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のブレイディみかこさんも仰ってましたが、これからも読者のみなさんの手によって本が育っていくことを期待します。

 株式会社フライヤーの代表取締役・大賀康史氏は、今回の受賞作品について以下のように総括した。

「入賞作品から見えるトレンドは、“人種や価値観を超えた多様性の理解”だと思います。変化が加速する現代において、ビジネスパーソンは今後の世界や自分の生き方に不安を抱いている。世界の中でも「豊かな人たち」と「そうでない人たち」をはじめとするさまざまな二極化がすすんでいると感じる人も多いのではないでしょうか。
 総合グランプリの『FACTFULNESS』、そして部門賞に輝いた『売上を、減らそう。』、『学校の「当たり前」をやめた。』、『天才を殺す凡人』、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には、人種や価値観を超えて多様性を理解して認めあおう、共に歩みをすすめていこうという意識が表れています。また、去年から引き続き『メモの魔力』や『学び効率が最大化する インプット大全』など、知的生産を扱った本もよく読まれています」

 グランプリ及び、部門賞受賞書籍は全国の700を超える書店でフェアが展開される。

 出版不況が叫ばれる中、ビジネス書の販売額は前年度を上回るなどヒット作が多く、この状況を支えるのは20代が中心だと言われている。今年のビジネス書のキーワードは「多様性の理解」。いろいろな立場にある人を理解しながら、ビジネスパーソンとしてはもちろん、自分自身のアップデートもしていこう。

ビジネス書グランプリ2020
https://business-book.jp/

取材・文・写真=松永怜