伝染病の脅威を描いた名作『ペスト』が異例の売上増。「まさに今起こっていることが描かれていた」と驚きの声

文芸・カルチャー

更新日:2020/4/4

『ペスト』(カミュ:著、宮崎嶺雄:訳/新潮社)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威が人々の生活を脅かすなか、全国の書店では伝染病との戦いを描いたフランス文学の名作『ペスト』(カミュ:著、宮崎嶺雄:訳/新潮社)が異例の売上を記録。ネット上では「まさに今起こっていることが描かれていた」「本の内容がリアルタイムで進行していることにぞっとする」「作中人物の反応が現実とあまりにそっくりで衝撃を受けた」など、大きな反響が上がっている。

 同作はフランスのノーベル文学賞作家、アルベール・カミュが1947年に発表した長編小説。作中では1940年代のアルジェリア・オラン市で、高い致死率を持つ伝染病・ペストが発生。封鎖された街の中で、市民たちは愛する人との別れや孤立と向き合いながら“見えない敵”と戦っていく。

 ペストの感染が広がっていき、不条理極まりない状況下で市民たちの人間性が蝕まれていく様子は読者に少なからずショックを与えるかもしれない。しかしその筆致はあくまで淡々としており、リアリティに満ちている。また小説の中には70年前に書かれたとは思えない、現在の状況とリンクするような描写を多数発見できるだろう。

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「徹底的な措置をとらなきゃ、なんのかんのいってるだけじゃだめだって。病疫に対してそれこそ完全な防壁を築くか、さもなきゃ全然なんにもしないのもおんなじだって、いったんです」

「これをペストと呼ぶか、あるいは知恵熱と呼ぶかは、たいして重要なことではありません。重要なことは、ただ、それによって市民の半数を死滅させられることを防ぎとめることです」

「世間に存在する悪は、ほとんど常に無知に由来するものであり、善き意志も、豊かな知識がなければ、悪意と同じくらい多くの被害を与えることがありうる」

 閉鎖された環境下で伝染病の脅威と戦う登場人物の姿や、後手にまわる行政の対応を描いた場面に、日本の現状を重ねて受け取った人は多い様子。実際に本を読んだ人からは「世界が疫病に怯え、闘おうとしている今こそ『ペスト』が圧倒的共感とともに身に迫る。ここから学べることは多いはず」「災厄と戦う人々の生き様や結びつき、そしてモラルへの真摯な探求に惹きつけられる」「自分は本当の危機を前にして勇気をもって戦えるのか自問自答してしまう。このオラン市は未来の日本なのかもしれない」といった感想が上がっていた。

 発売元の新潮社ではコロナウイルスの感染が拡大し始めた2月頃から、同書の売上が急増することに。全国の書店で品切れが続出し、緊急で1万4000部の増刷が決定(その後さらに2万部の増刷が決定し、合計3万4000部の増刷に)。現在は在庫が切れているにも関わらず、大手通販サイト「Amazon.co.jp」の新潮文庫売上ランキングで1位を獲得し、全書籍ランキングでも上位に入るなどその勢いは増す一方だという。

 また国外でも同様のブームが起こっており、海外メディア「Le Point」の報道によるとフランスでは約4倍、イタリアでは3倍ほど同書の売上が増加しているようだ。

 社会に混乱が起きている時にこそ、“古典名作の力”に注目が集まるもの。自分たちを取り巻く状況と冷静に向き合うためにも、『ペスト』を手に取ってみてはいかがだろう。

(情報は、2020年3月11日時点のものとなります。)