「続・かっこいい老い方」内田 樹×名越康文×橋口いくよ 電子ナビスペシャル鼎談

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更新日:2013/8/13

可愛いおばあちゃんは実在するのか?

名越 鳥類系をやるにしても、日本人はどっかに可愛さを残そうとして、突然パーティーで頭に花とか付け出すことがあるでしょう。あの花は何なのですか?

橋口 コサージュとか、ヘッドドレスみたいなもの? 確かに、そこまでやる気持ちはあるのに、まだ目立ち過ぎないよう、さりげなさを残そうしてる日本人独特の心理ってありますよね。全体的に中途半端なんですよ。そこがさらに煮詰まって煮詰まって「可愛いおばあちゃん」っていう、謎の逃げ場みたいな言葉があるじゃないですか。

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内田 うん。もう、単語としてあるよね。でも、実体がない。

橋口 ないですよね。例えば、八千草薫さんとか、今でもきゅんとなるようなすごく可愛らしい感じがするけれど……。

内田 ああいうの、おばあちゃんっていうの?

橋口 そう! 呼ぶ気にならない。

名越 そりゃそうですよ。僕、20年位前に、八千草薫さんみたいに着物を着こなす旅館の女将さんに会ったことがあるんです。その当時80歳ぐらいの方だったと思います。日常的に和服を着てらっしゃるんですけど、全体的に小さくて可愛くて、独特の透明感があって、しかも色気があった。なんかもう「わぁ綺麗!」って思ってしまう感じになったのをよく覚えています。その人も「おばあちゃん」って感じはなかったな。

橋口 着物かあ。

内田 着物はあるね。

橋口 ハードルが高い……。だいぶ若いころからちゃんとやっていかないと、突然和服着てもそんなふうにはならないだろうし。ある年齢になって突然お着物を……とかやると、私なんて未婚だから、酒井順子さんが『負け犬の遠吠え』で書かれていたイヤ汁を出している状態になっちゃうのかなあ。

名越 イヤ汁ってなんなの?

橋口 けっこう年齢がいってから急に和服を着たり、踊りを習い始めたりとかして、夢中になっている時に出る、生腐りしかけた女性のイヤな汁のことなんですって。

内田 は~。厳しいねえ。

橋口 女の人って厳しいんですよね。ていうか、ここで私たちが話していることも、相当厳しいですよ。私なんて、どっか、自戒の念もあるっていうか、まるで自分で自分の首を締めてるような気すらしてきた。

名越 僕も内田先生も、どっちかというと根っこがおばさんでしょう。だからこういう話する時、八割はおばさんになってしまう。 普通、男はスルーしてくれるじゃないですか。厳しい批評、しかも舌頭鮮やかな批評者って絶対女性だもんね。そこをかいくぐるためには、やっぱり着物を着ないと!

橋口 ただ、昔の女性は着物とその中味がしっくりきていたからこそ素敵だったのかもしれないし、時代背景もあっただろうし。

名越 確かにね。聞いた話なんだけど、もともと江戸時代の日本の女性の教育レベルって世界一だったって説があるんですよ。日本の伝統文化って、ほとんど女性が支えてたって言ってもいいぐらいなんですよね。

内田 今でもそうだからね。和歌や俳句もそうだし、能なんて、支えてるのは80パーセント女性だからねえ。観客も女性、習ってるのも女性。

名越 歌舞伎観に行くのも女性が多いですからね。だからね、すごく高いレベルの日本の伝統芸能ってほとんど女性が支えているのよ。いいじゃないですか、着物。

内田 うん。やっぱりそっちだね。和服着て、伝統芸能。そっちに行く人は、行かない人から見るとうっとうしいのかも知れないけれど、伝統文化はいいよ。僕のまわりは遅くになってから能や武道を始めた女の人たくさんいるでしょう。外から見たら気に障るかも知れないけれど、中は穏やかだよ。いいじゃん、「和に帰る」で。“鳥類化”するんじゃなければ、残る選択肢は“和”だよ。