280万部突破『銀の匙』、快進撃の理由

マンガ

更新日:2012/6/8

書店員らによる「マンガ大賞2012」大賞に選ばれ、単行本総売り上げは280万部を突破! 本誌の上半期BOOK OF THE YEARでも男性マンガ部門で1位を獲得し、勢いが止まらない『銀の匙』。壮大なファンタジーである前作『鋼の錬金術師』に対し、今作の舞台は北海道の農業高校。主人公は、将来の夢がないと悩む都会育ちの少年・八軒勇吾。一見地味そうな設定だが、その魅力は一体何か? 

 掲載誌『週刊少年サンデー』の主な読者は、八軒と等身大の悩みを持つ少年たちだ。戸惑いながら、農業に触れていく様は、彼らの大きな共感を得た。例えば、八軒は食肉用の仔豚に情を抱くが、仔豚はいずれベーコンになる。「命をいただく」という根源的なテーマを、八軒とともに考えさせられるのだ。

 しかし、読後は重くない。ギャグとの緩急が絶妙で、最終的には「超!うめぇぇ!」ごはんとして「美味いんスよね!困ったことに!」と食される。その描写に思わずよだれが……。また、息遣いまで聞こえそうな動物たちの臨場感ある描写は、酪農家生まれの作者ならではだ。

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 別著の『百姓貴族』と併読するとよく分かるが、地味そうな農業の世界は、時にファンタジーより想像を超える! そんな世界で八軒はどんな成長を遂げるのか。目が離せない。

文=倉持佳代子
(ダ・ヴィンチ7月号「出版ニュースクリップ」より)