「遠野物語100周年文学賞」受賞作家が語る、柳田國男と震災への思い

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

岩手県内陸部の街・遠野に生まれ育った佐々木喜善という文学青年が語る怪奇な実話や民間伝承を、いち早くその価値に気づいた柳田國男がまとめて上梓した一冊、『遠野物語』。その『遠野物語』の発刊100周年記念小説コンクールで遠野物語100周年文学賞を獲得した作品、神護かずみの『人魚呪』(角川書店)は、戦国時代の乱世を舞台に史実と虚構があやしく交差する伝奇ホラー小説だ。

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うらぶれた浜辺の寒村で生まれ育った左吉が父の亡骸を葬りに行った岬の洞窟で美しい人魚と出会い、言葉も通じぬその妖かしにマナと名付け、それが流転する運命の始まりだとも知らずにやがて深く愛するようになるというストーリーの本作を、選考委員の一人である作家の高橋克彦は、ホラーの名品として必ず注目を浴びるに相違ないと評している。

実は、神護さんが小説を世に送るのは今回が初めてではない。1996年に朝日ソノラマ文庫から『裏平安霊異記―乱寛太鬼密行』という小説を出しているのだ。この頃神護さんは転勤で奈良に数年住んでいたそうだが、その後仕事が忙しくなり、執筆できない時期が続いた。

「最近になって、ようやくもう一度書いてみようか、という気になったんです」。そして、どういう偶然か、再起を期して買い求めた原稿用紙に最初の一文字を記したのは、みちのく・盛岡でのことだったという。
「今思えば、『遠野物語』をその名に冠した文学賞に応募することになる物語を書き始めたのが出張で訪れていた盛岡だったことに、なにやら縁を感じます」

この時はまだ賞のことを知りもしなかったという神護さんだが、その後コンクールのことを知り、『遠野物語』をイメージしたとたん、筆がするすると進むようになったという。だが、現実との符合はそれだけではすまなかった。神護さんに受賞の連絡があったのは昨年の3月9日。そう、東日本大震災の2日前だ。
「震災の日も出張で、ある地方都市にいました。そこも結構揺れまして、えらい地震が起きたなと思ってテレビを見ていたら、まもなく東北が大変な被害を受けたというニュースが入って来まして。とりわけ、津波の一報を見たときには思わず絶句しました」

それもそのはずである。今回の作品には、3・11で起こった大災害を彷彿とさせるような場面があるのだ。本作が一昨年までに描き上げられていたということを知らなければ、震災の影響を受けて書かれた物語だと勘違いしても仕方ないだろう。
「受賞作を出版するにあたり、その場面を変えるべきか、というのは悩みました。正直、今でも引っかかっているところはあるんです。ですが、編集者とも相談のうえ、改稿しないことに決めました。これはこれで、エンターテインメントとして楽しんでいただければと思いまして。今回の話は暗めですが、本来は明るいハッピーエンドのほうが好きなので、今後はアクションあり、笑いありの楽しい小説を書いていけたらと思っています」

取材・文=門賀美央子
(ダ・ヴィンチ7月号「『人魚呪』神護かずみ」より)