夏の甲子園の復活劇!──『夏空白花』文庫化に「球児たちの無念さが分かるから、今読むとさらに泣けそう」と反響続出

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/6

夏空白花
『夏空白花』(須賀しのぶ/ポプラ社)

 全国の高校球児たちが熱いドラマを繰り広げる「夏の甲子園」。今年は新型コロナウイルスの影響によって開催が中止となり、やりきれない想いを抱えている人も多いだろう。そんな苦境のまっただ中で、失われた「夏の甲子園」の復活劇を描いた小説『夏空白花』が文庫化。ネット上で「甲子園大会がなくなった今だからこそ読みたくなりました」「球児たちの無念さが分かるから、今読むとさらに泣けそうです」と話題を呼んでいる。

 夏の甲子園(全国高等学校野球選手権大会)が最初に開催されたのは1915年のこと。1941年には太平洋戦争の勃発によって地方大会の途中で中止となり、その後“空白の4年間”が存在する。『夏空白花』では敗戦直後の1945年を舞台として、甲子園大会が復活を遂げるまでの物語が描かれていく。

 主人公の神住匡(かすみ・ただし)は大阪朝日新聞の記者であり、かつて高校野球のヒーローになりそこねた男。神住は人々の熱い想いと祈りに触れ、戦争によって失われていた高校野球大会を復活させるために全国を奔走する。しかしそこで立ちふさがったのは思惑を抱えた文部省の横やりと、高校野球に理解を示さないGHQの強固な拒絶だった──。

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 史実を踏まえた歴史小説でありながら、野球に魅入られた人々の青春が描き出されているのが同作の魅力。作品に触れた人からは、「電車の中で読んでいて、最後は涙腺が決壊しそうになった。野球っていいものだな、としみじみ思う」「いくつもの荒波を乗り越えていく展開に胸が熱くなった。夏にふさわしい、さわやかな読後感」「戦前から続く夏の甲子園大会にこのような復活劇があったとは、知らなかった。子どもたちに希望を与え、大人たちの士気を高めるために全国を行脚する記者の姿に深く胸を打たれる」といった声が上がっていた。

 作者は『革命前夜』や『また、桜の国で』などの作品を世に送り出してきた小説家・須賀しのぶ。須賀は執筆のために終戦日から1年分の大阪朝日新聞を読み込み、歴史の流れをつかんでいったという。

 作中で描かれる終戦直後の混乱は、奇しくも現在の状況と通じるところがある。今年の夏は甲子園大会の復活を祈りながら、記者たちの物語に胸を躍らせてみてはいかがだろう。

【須賀しのぶさんインタビュー】夏の甲子園に存在する“空白の4年間”――高校野球に殺された男による戦後の高校野球復活劇!